警戒はしていたのだと言い訳させてほしい


 茶道部に顔を出した翌日の放課後。俺はいつものように、生徒会室でせっせと書類作成に追われていた。

 なんでこんなに書類が多いんだ。思わずそう愚痴りたくなるほど、毎日のように書類との格闘が続く。

 まあ、来年度のことを考えれば、細かい部分まできっちり書面にしておいた方がいいのだろうが。

 それにしても学園祭まで、あと八日しかないんだぞ。未だに会議やらなんやらとバタバタしているが、本当に大丈夫なのかと問いたくなる時もある。

「学生の時なんて、そんなもんか……」

 そんな俺の呟きは、誰もいない生徒会室に木霊した。さっきまで若槻がいたのだが、職員室に用事があるからと席を外している。その他の奴らは、全員会議に出席中だ。

 予定では俺も会議に出るはずだったのだが、頼まれていた書類の作成が終わらなかったので欠席させてもらった。

 昨日、提出締め切りの用紙を、今日の放課後になって届けてきたクラスがあったからだ。半泣き状態の生徒を前にしては、さすがにだめとは言い難い。しかたなく、作成済みのものをパソコンで打ち直しする破目となったのだった。

「……よし、これで終わりだな」

 ふぅ、と溜息をついて俺は椅子から立ち上がった。あとは若槻にチェックしてもらって、必要な部数をコピー機で刷るだけだ。

「茶でも飲むか」

 会議が終わるまで、少なくともあと一時間はかかるだろう。俺は若槻のチェック待ちなので、一息入れるだけの余裕はあるはずだ。

 昨日、部長から「よかったら、新しく買った茶葉をもっていきなよ」ともたされたものがある。

 癖がなくすっきりとした味わいが特徴の日本茶で、部長のお勧めらしい。うきうきとしながら給湯室に向かおうとしたのだが、その途中で、補佐のデスクにあった書類の束に気付いた。

「ん……?確か、これって今日の会議で使うやつじゃ……」

 凛斗と蘭斗が悪戦苦闘しながら作成していたはずのものが、なぜかデスクに置き去りのままとなっている。会議の終盤に使われる予定なので、今からもって行けば間に合うのだが……。

「でもなぁ」

 会議室は、一般の生徒が出入りできる棟にある。一人で出歩くなと念を押されているため、届けに行くことは躊躇われた。

 若槻がいれば代わりに届けてくれるだろうが、いつ戻ってくるか定かではない相手を待っている余裕はない。

 かといって、新井を携帯で呼んだとしても、はたして会議の終盤に間に合うかどうか。

 俺の脳裏を、初めて若槻に訂正なしの一発OKを貰えたと、はしゃいでいた双子の姿が過ぎる。苦労して作成したものだけに、忘れたとなれば双子の落胆も激しいだろう。

 また、役員の落ち度として、会長である葛城が謝罪するはめにもなるはずだ。

「あ゛ー……」

 ――少しくらい大丈夫だろう。

 呼び止められても、走って逃げれば問題ない。そう判断し、俺は書類の束に手を伸ばしたのだった。

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