装いを選ぼう
「あ、そうそう。ユウ君とムー君がクラスの手伝いで今日は来れないってさ」
「一年の三人からも来れないってメールがあったから、今回はこれで全員だね」
入れたてのお茶を二人の前に出しながら、部長が心得たように頷いた。茶道部は二年が五人、一年が四人の計九人で構成されている。三年が受験のために引退してしまったので、少し寂しくなってしまった。
「せっかくカタログ持ってきたのにさぁ。勝手に選んじゃうぞ!」
「はははっ。そんなことを言ったら、みんな慌てて来るだろうね」
「あとで泣いて縋られるからやめときなよ」
二色と筒井の両方から攻撃を受け、染谷は不満げに唇を尖らせた。
「なんで俺のセンスを理解しないかなー。あ、トモはもちろん俺が選んだやつを着てくれるよね!」
「自分で選びますから気にしないでください」
「ひどっ!」
笑顔で断われば、染谷がテーブルに撃沈した。まあ、いつものことである。とりあえず、俺は悠長にはしていられないため、さっさと着るものを選ぶことにした。
「一日目と二日目で流派が違うから、それに合わせたものを二種類選んでね」
茶道は流派によっても好ましいとされる正装の類が異なる時もある。例えば、多少華やかなものをよしとする流派もあれば、限りなく地味な装いが好ましいとする流派もある。
また、その人の立場によっても異なる場合があるが、茶会といってもあくまで文化祭の出し物の一つであり、お客様は一般の生徒たちだ。そこまで拘る必要はないだろう。
「部長たちはもう決まってるんですか?」
「僕はだいたいね。落ち着いた感じのもので、それぞれ時季に合わせたものにしようかと思ってるよ」
「俺もー。悩んでるなら、気になるのいくつか選んじゃっていいよ。実際に着て選べばいいし。好きなだけレンタルできるから」
染谷の実家は呉服店だが、副業で着物のレンタルも行っているそうだ。
格式高い席の場合、着るものもそれ相応でなければ失礼に当たるため、かなりの出費を覚悟しなければならない。出席の頻度が少なければ、レンタルの方が助かるという者も多いだろう。
俺は以前、母方の祖父から茶会用の着物と袴の値段を聞いて、目が点になった覚えがある。
「僕はこれから決める予定」
「だっからー、俺と色違いのお揃いにしようって言ってんじゃん」
「やだよ。僕の品性が疑われる」
「マモ君、チカ君が酷いこと言うー!」
「いつものことじゃないか」
部長もなかなか辛辣だよな……。まあ、それだけ気心が知れた仲ということなのだろう。この三人の、のんびりとした雰囲気は嫌いではない。
「それで、渡部君はどれにするんだい?」
「そうですね……渋めのものがいいですね」
紺色の深いものや、墨色、時季を考えるなら江戸紫あたりか。とりあえず、着物を先に選ぼう。袴はそれに合わせて決めればいい。
時間もないため、俺はカタログに見入った。
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