突発ゲーム大会?
学園祭まであと十日を切った。慌しい。実に慌しい。放課後はすべて生徒会活動に時間を持って行かれ、クラスの準備をまったく手伝えない日々が続いている。
当日頑張ってくれればいいよ、とクラスメイトたちの温かい言葉に甘えているが、今度差し入れでも持って行くべきだろう。特に衣装班は、目の下にクマを作ってるからな……。
そういえば茶道部にも全然顔を出せてないな、と溜息をつきながら、俺は手元のプリントに目を通した。
「……“突発ゲーム大会”?」
なんだそりゃ。極秘の判子が捺されたプリントに俺は思わず首を傾げた。開催日は学園祭の前日となっている。確か、前日の授業は学園祭の準備に当てられているはず。忙しさも最高潮の日になにをするつもりなんだろうか?
俺の呟きに、隣りのデスクでパソコンに向かっていた若槻が顔をあげた。
「ああ、そういえばトモは知らなかったね。実は学園祭前日に、生徒会と風紀委員会の合同で突発イベントを開催する予定なんだ」
若槻の言葉に、俺は「突発イベントですか?」と訊き返した。ちなみに、生徒会室には、俺と若槻、葛城の三人しかいない。他の奴らは会議と、その手伝いのため留守だ。
「別名、救済企画といったところかな。学園祭の出し物で、クラス部門と部活部門に分かれて、人気投票が行われることは知ってるよね?」
「はい」
生徒には一人につき五枚の投票カードが、教員や学園で働く者たちには十枚から十五枚の投票カードが渡される。それを自分がもっとも素晴らしいと思ったクラス・部活に投票し、順位を決めるのだ。
ちなみに、自分のクラスや所属する部活への投票は無効となっている。カードには予め本人の名前がプリントしてあるので、不正行為は不可能に近い。
「でも、受験を控えた三年のクラスは凝った出し物ができずに、どうしても一、二年クラスとの間に優劣が出てしまうんだよ。だから、今年はそんな彼らを対象に救済企画を行うことにしたんだ。上手く点数を稼げれば上位も夢じゃないよ」
「でも、対象は全校生徒になってますよね?」
プリントには、全校生徒に参加の権利があると記載されている。それでは、救済企画の意味がないような……。
「だから、前日にやるんだ」
気だるげな口調で会話に入ってきた葛城は、手を動かしながら説明する。
「三年は展示系や、手間のかからないものが多いからな。前日は暇してる奴が多い。反対に、二年と一年は前日の夜まで準備に追われているとこが大半だ。ゲームに参加してる暇はそんなにないだろ」
クラス部門は七位まで賞品が出ることになっている。ゲームで得た得点が加算されるとなれば、上位はむりでも七位以内に食い込むことも可能だろう。
部活部門も同じく七位まで表彰だが、こちらは来年度の部費アップが賞品となっている。部活部門については、一、二年が中心のため、救済企画は適用されないのだろう。どの部も、三年は大抵引退してるからな。
「つーわけで、トモ。コーヒー」
いや、ほんとさ、葛城はきれいさっぱり猫被りを取ってくれたよな。いっそ清々しいくらいだ。
ぶっきら棒な物言いにも慣れてしまった俺は、葛城の要望通りコーヒーを入れるべく給湯室に向かうのだった。
ちなみに、知らない間に俺の呼び名は「トモ」で固定されてしまったようだ。
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