ようこそ、生徒会へ


 警戒心の強い野良猫の信用を得るのは難しい……と思った俺を殴りたい。

 あれだ。ふらふらと放浪している野良猫を心配したのが、そもそもの間違いだったのだ。どうも俺は、麻紀の小説に登場したキャラに対し、必要以上に甘い傾向にあるらしい。

 その結果、なぜか俺の背中に中森が引っ付くこととなってしまった。双子からはブーイングの嵐だ。むろん俺ではなく、中森に対して。

 というか、屋上での会話からまだ一日しか経ってないぞ。その一日で、いったいどんな心境の変化があったんだ。

「あの……中森君?」

「苗字じゃなくて、名前で呼んでって言ってるじゃん。俺も渡部のことは、トモって呼ぶしー」

「……響君。その、どうして僕の背に」

「君はいらないよー」

「……響。どうして席に戻らないの?」

 珍しく生徒会室に顔を出した中森は、なぜか棚で資料の整理をしていた俺の許へ真っ直ぐやってきた。そして、仕事を手伝うわけでもなく、俺の背後に居座り続けている。

 頼むからさっさと離れてくれ。双子を除いた全員が、唖然とした表情でこっちを見てるじゃないか。

「んー、なんとなく?」

「なんとなくって……」

「なんか、くっつきたいんだよなぁ」

 身長は中森の方が大きいため、背後から抱き締められているような格好になっている。ここは振り払うべきか……いや、それでは俺が今まで培ってきたキャラが。

「……響。とりあえず、渡部君を放しなさい。困ってるよ」

 見かねた若槻が助け舟を出してくれた。それに中森は俺の肩に顎を乗せながら、顔だけを若槻の方へと向ける。

「諷真先輩は、俺のこと心配した?」

「当たり前だよ。仲間なんだから」

 若槻は突然の質問に驚いた様子だったが、すぐ憤然とした態度で頷いた。当たり前のことを訊くな、と言った感じだ。

「「僕らも心配したよー!」」

 双子が両サイドから中森目掛けて突撃した。ぐふっ、と声が漏れ、俺の肩から中森の腕が離れる。いいぞもっとやれ。

「きょーちゃんがどっか行っちゃうんじゃないかって、不安だったもん!」

「いっそ、生徒会室に監禁して椅子に縛り付けておこうかとも考えたしねー?」

 なかなかの過激思想だな。さすがの中森も、「へ、へぇ〜?」と焦ったような声をあげている。

「馬鹿かお前は。この中で、心配してなかった奴なんているか」

 不機嫌そうな声で告げたのは葛城だった。なんだかんだ言って、こいつもかなり中森のことを気にしてたみたいだからな。って、あれ……?猫被りが剥がれてないか?

 一方中森は、葛城の言葉に、「そっかぁ……」と嬉しそうに呟いていた。

「響。お前はいいんだな?」

「うん。俺はトモがいーよ」

 再び背後からぎゅっと抱き締められる。葛城を見れば、にやりとした笑みを返された。これは完璧に猫被りがなくなってるよ、な……?

「士朗は?」

「かまわない」

「そうか。これで全員の意見が一致したな。渡部朋幸――俺たち生徒会は正式にお前を補佐として歓迎する」

 ……どこでどう間違った。

 どうやら俺は、知らぬ間に自分で自分を追い詰めていたようだ。

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