【中森side】監視中
腹が空いた、と中森は溜息をついた。
現在、中森は寮の自室でパソコンに向かっていた。そこには、校舎に仕掛けられた監視カメラをハッキングした映像がリアルタイムで送られてくる。画面に映るのは、もじゃもじゃ――変装中の北原総司だ。
職員室には、まだまばらだが他の教師の姿もある。北原は自分のデスクに向かって、なにか作業をしているようだ。監視カメラの映像はお世辞にも鮮明とは言い難く、ここからではなにをやっているかまでは確認することができない。
「早く部屋に戻ればいーのに」
北原が職員寮に戻らない限り、監視の手は休められない。現在、神埼と交替で北原を見張っているが、特別変わった様子は見られなかった。
(そもそも、俺らの目があるような場所でターゲットに接触するわけないじゃん)
彼はその道のプロなのだ。ボロを出すとは到底思えない。そんな相手ならば、すでにターゲットにかんする情報を引き出せていたはずだ。
しかし、よくもまあここまでするものだ、と中森は躍起になってターゲットを捜している者たちのことを思った。
こちらが死に物狂いで捜しているということを、ターゲットも知っているはずである。
同じ学園にいるにもかかわらず、名乗り出ないということは、裏を返せば会いたくないということに他ならない。それでも捜そうというのだから、恐ろしい執念だ。
「俺にはちっともわかんないけどねぇ」
葛城や西園寺らが、ターゲットに執着すればするほど、中森の心は冷めていく。
彼らの想いが理解できない。
なぜ、たった一人の人間にそこまで執着できるのだろうか。それも、言葉を交わしたのはほんの数分だけだと聞いている。それで、あの盲目なまでの態度だ。
もしも、捜し出した人物が、自分たちの想像とは違っていたらどうするつもりなのだろうか。
(それでも、命じられれば任務を遂行するけどさー)
好きにすればいい、というのが中森の結論だ。元々、情報を集めて吟味したり、裏の裏をかいて人を出し抜くことに快感を覚えたりする人種だ。夜の街で名が売れてしまったため、自分の身を守るためにチームに所属したにすぎない。
それでも、一応仲間意識はあるつもりだ。仲間が窮地に陥れば、身を呈してでも助ける覚悟はある。それに、タウゼント以外に、これほど居心地がいいと思えるチームはないだろう。
だから、葛城たちが喜ぶならばそれでいいとは思う。ただ、他の者のようにターゲットの捜索に熱くはなれない。それだけだ。
画面をぼんやりと眺めていれば、やがて北原が席を立った。荷物の整理をしているところを見ると、今日の業務はこれで終いのようだ。監視カメラを職員室前の戸に切り替えれば、数分と待たずに北原が姿を現した。
食堂に向かうと思いきや、北原はまっすぐ職員寮へと向かうようだ。職員寮では、忙しい教員たちのためにデリバリーが可能となっている。北原は着任してから今まで、夕飯はデリバリーで済ませていた。
監視カメラの画像を切り替えながら目で追っていると、携帯が着信を知らせた。画面を見れば、そこには“神埼”の文字。
「もしもーし」
『交替の時間ですよ』
「はぁーい。北原サンは、現在職員寮に向かっているところだから……ええと、二十一番カメラがちょうどいいですよ」
『わかりました』
用件だけを告げ、通信は切れた。椅子に座ったまま背伸びした中森は、カードキーを片手に食堂へと向かうべく部屋を出たのだった。
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