肌寒かった。
裸の肩の冷たさに目覚めた。
毛布がずり落ちていて、少し眉を寄せた。
風邪をひいたら大変だ。まったく、自分の寝相の悪さには呆れてしまう。
毛布を手繰り寄せたとき、ふと、思った。
ではなぜ私は裸なのだろう?
…。
ぼやけていた思考がはっきりとしてきて、私は隣を振り返る。
薄暗闇に男性の身体。
規則正しい寝息と、上下する厚い胸板。
ああ。そう、そうだった。
目を閉じて息を吐く。
昨日は彼が来ていたんだった。

静かすぎる夜で、部屋の温度は低い。
覚めてしまった眠りにはもう入り込めそうになかった。
再び目を開けて、見えるのは彼の裸体。
逞しいといつも思う。
空いた隙間がさびしく感じて、身じろいで埋めた。
寝息と体温を感じる。
暗闇に目が慣れ始めて、彼の穏やかな顔がうっすらと。
私はただ、それを見つめている。

どうしようもなく、愛しいと思った。
激しく湧いてくる感情は、数時間前の欲情とは全く違ったもの。
なぜか泣きたくなるほどに、この人が愛しいと思った。
じわりと視界が、彼が滲む。
瞬きすると、目尻を流れる涙を拭いはしなかった。
そっと腕を伸ばして、彼の逞しいそれに絡めてみる。
暖かかった。冷え症の私とは大違いだ。
擦り寄ってみる。彼の香りがする。
また、泣きそうに切なくなった。
なぜこんな気持ちになるのか。こんなことをしているのか。
私一人この空間に取り残されたような気がするからか。
彼が、どこかに消えてしまいそうな気がするからか。

締め付けすぎたらしく、彼が身じろいだ。
「…どうした」
寝起きのかすれた声が降ってくる。
「なんでもありません」
彼の腕にしがみついたまま答えた。
あなたがどうしようもなく愛しくて切ないんです。
「寒いだけです」
「随分可愛らしいことをするようになったな」
笑う彼は、私の腕を解こうとはしない。
もう片方の腕で私を抱き寄せた。
やはり暖かい。じんわりと身体の芯から温もっていく。

「大丈夫だから」
耳元でそっと、囁かれた。
「私はここにいるから」
彼の腕にくるまりながら目を見開いた。
お見通しだというように、でも何も訊いては来ず、抱きしめるだけの腕。

どうして、わかってしまうの。
どうして、何も訊かないの。
…わかっている。
それが彼の優しさだとよくよくわかっている。
そしてそれがまた切ないのだ。
何も言わずに頷いて、私はまた泣いた。
今度は腕を濡らしてしまったから、きっと気づかれている。
彼は何も言わなかった。


―――――――

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