あめもよう



「あめ、好き?」

庭の葉を濡らしていく雫を見ながら言うんだから、当然空から降ってくる雨の方だとわかっちゃいる。
だけど、何故だかこういうところで意地悪をしたくなるのが俺なわけで。

「どっちの?」

案の定、彼女はポカンとして、そしてすぐにわかったのか、少し頬を膨らませた。からかわないでよ、と目が語る。

「わかるでしょ普通」

「いんや、わからないね」

「…」

彼女はムッとして黙り込んだ。
自分の思う会話が出来なかったことがきっと腹立たしいのだ。
彼女は普段からとても恥ずかしがりで、やっと何か話題を見つけ俺に話し掛けるのに、俺はすぐからかって返すから。
でもさ、しょうがないじゃないか。そんな彼女を見るのが好きなんだから。



「…降ってる方に、決まってるでしょ」

彼女の赤くなった頬は林檎みたいだといつも思う。うん、つつきたくなるような。


「ああ、そうだったの」

「わかってたくせに、」

彼女はふいと顔を背けた。
それで、雨は好きなの?
そのままぼそぼそとまた質問されて。

「君は?」

「…私は好き」

「…じゃ、俺も好き」

「なに、それ」

クスッ。
あ、笑った。




「…でも」


俺はポケットに確かあったであろう物を取り出して、未だに顔を背けてる彼女にバレないようそっと口に含んだ。「ああ何て調度良いものが出てくるんだ俺の四次元ポケット」とか馬鹿げたことを思いほくそ笑みながら。


「こっちのあめも好きだよ」

「えっ?」

彼女は振り向いた。筋書き通りの展開とはまさにこのこと。




驚いて緩くなった彼女の唇をそっと押し開けて、さっきのあれを彼女へ転がす。

そして唇同士はゆっくり離れた。




いまだ驚いたまんまの顔は本当に可愛くて。

ああやっぱり君が一番好きかなぁ、と思った俺はきっと相当バカだ。



―――
随分前に書いたもので、別サイトに置いていたものです。
とある方のサイト開設祝いに書かせて頂きました、懐かしい。そして背中が痒い。
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