雨が降りだした。
窓から霞む景色を一瞥して、私は未だ私用電話を長々続ける上官を見やった。
視線に気づいた彼は、私の無言の意見をよくよくわかっているはずで、それでいて悪戯っぽく笑い、電話の相手に話し続ける。
「しまったなぁ…雨が降ってきてしまったよ。今日はやめて…何、それでもいいのかい?全く君って人は…」
やれやれ、といかにもな様子で肩を竦める彼を、私以外の人間は完全に無視して仕事に勤しんでいる。
私はといえば、忠告すべきことのために、電話の終了を今か今かと待っている。
「…それじゃまた」
チン、と受話器を置く音。
咳払い一つ。
「アー…中尉、「だめです」
午後からデートに行くから
なんて、言われなくともわかっている。
雨の日は無能なんだから駄目です
私の言わんとすることは通じている。はずである。
「…君は心配性すぎる」
「貴方はご自身に無頓着すぎます」
やや苦い顔をした彼は、溜め息をついて、椅子にもたれた。ギィィと音がする程に。
「だったら君が護衛したまえ」
「構いませんが、それは野暮というものでは?」
「なんで」
「相手の方に失礼です」
「気にするな」
「気にします」
「…」
渋い顔でこちらを睨む彼の目は「いいから言う事きけ」と言っている。従う気はない。修羅場に巻き込まれるのは御免である。
第一、女性を大切にする彼がそんなことを命ずるのが私には信じられなかった。
「わーかった。今日は出ない。後で断っておくよ」
「賢明なご判断です」
大袈裟にがっかりした仕草を、まるで私のせいだと言わんばかりにするから、皮肉を込めて答えた。
自分の能力のせいでしょうが。全く。
久しぶりに。リハビリのSSです。中途半端でごめんなさい。