小説 | ナノ
最愛.
 恋心とは、次第に変化するものだということを、最近知った。
 以前、友人が彼氏が出来て少しした頃に「彼氏に愛してるって言われたんだけど、私はまだ愛してるじゃないんだよね」と相談をされたことがある。
 確かあれは、まだ私が真琴先輩を好きになる前で、私には恋のこの字も知らない頃であった。相談にのったというのに、私にはさっぱりわからない次元の話で「そっか」としか言えず、友人には大変申し訳ないことをしたなと思う。
 しかし、大学卒業間際の今となって漸くその意味を理解した。
 先輩のことが好きだと自覚したのは高校二年生の夏。先輩に告白されたのはその歳の十二月のクリスマスの日。あれから、私たちは順調に恋を育て、次第にそれは愛へと変わっていった。私も、先輩も「好き」とか「大好き」とかは割と口にする。けれども「愛してる」は口に出したことはお互いなかった。
 なぜ「愛してる」と口に出したことがないのかと聞かれたら、正直わからない。「好き」という気持ちは確かで、そこには愛もあるのだけれど「愛してる」という表現はどこか遠いものに思えたのだ。
 大学時代から同棲を始め、お互い無事就職をした今でもそれは続いている。先輩との関係は良好で特別大きな喧嘩もなく、問題はない。
 気付けば、私も先輩も、結婚適齢期という年齢になり、お互いの友人たちがこぞって結婚をするようになった。結婚式があまりにも多くて「ご祝儀貧乏だ」とふたりで笑ったことも最近の話だ。
 結婚を意識したことがないと言えば嘘だ。けれども、私と先輩はいつ、世間で言う「ゴールイン」するのだろうかと言えば私は首を傾げてしまう。ふたりでそういう話は今までにしたことがなかったのだ。
 先輩と一緒にいて「ときめき」がなくなったわけではない。確かに、付き合いたての頃と比べたらかなり落ち着いたとは思うが、今だって彼に「好き」と言われれば頬が熱くなるし、体に触れられれば心臓が壊れてしまうのではと思うぐらいドキドキする。
 これは恋だ。確かに恋なのだ。
 けれど、最近になって、私のその恋心が変化した。恋というには甘酸っぱくなくて、蕩けてしまいそうなぐらい甘くて、でもゆったりと穏やかな時間が流れるような、そう、例えるならアロマを炊きながらヒーリングソングを聞いているようなそんな感じの感情へと変わった。
 これは一体、なんと呼んだらいいのかわからない感情だ。
 家族に近いけど、家族ではなくて、恋人なんだけど甘酸っぱくなくて、でも、大切で守ってあげたい、守られたい人。
 ねえ、真琴先輩、この答えを貴方は知っていますか?



 金曜日の夜。決まって先輩は私を抱く。
「ごうちゃ、」
「や、だめ、だめです、さっきイッたばっか……ふああっ!」
 胸焼けしてしまいそうなぐらい甘ったるくて熱い息が互いの肌にねっとりと纏いつく。甘いのは互いの吐息だけではない。仕事から帰った真琴先輩を玄関まで出迎えると、彼は柄ではない薔薇の花束を手に照れくさそうに「ただいま」と言った。その花束が寝室の窓辺に置き去りにされている。彼から手渡された花束を胸に抱えたと思ったら、彼に抱き上げられ、そのまま寝室に連れ込まれてしまったのだ。
 お互い明日は仕事が休みであるという理由もあって、金曜日になると先輩は彼が満足いくまで私を抱き続ける。
 散々、彼の焦らすような愛撫にイき、私の体力はもう限界だと言っているのに、彼はうれしそうに厭らしく目を細めて私の一番感じる陰核を摘んだ。目の前がチカチカして、まるで雷に打たれたかのような快楽が全身を駆け抜ける。
 もう勘弁して欲しい。できない。そう思うのに彼の首に腕を回してしまうのはどうしてだろう。
「江ちゃん、あのね」
「ふあっ、な、に……?」
 真琴先輩は我慢していたのか先端が自身の愛液で濡れたそれを私の入り口に擦り付ける。なんだか、いつもの感覚と違う気がして、ぞくぞくと背筋に快楽がのぼり、彼のそれに吸い付く様に膣の入り口をひくひくさせた。
「愛してる」
 耳元に唇をくっつけて、今まで紡がれることのなかったその言葉を彼は掠れた声で漏らした。
 その瞬間、私の中に先輩の固く大きくなったそれがいっきに奥まで入り込み、声すら出ない。
 待って、待って先輩。
「江ちゃん、江、愛してる、」
「あ、やあっ!まこと、せんぱ、ひゃああっ!」
 愛の言葉を囁きながらも、先輩の腰は止まらず、私の中をぐちゅぐちゅと厭らしい水音を立ててかき回す。
 ああ、やっとわかった。
「江ちゃん、江ちゃん、俺、もうっ……んっ……!」
 ビクビクと中が震える。先輩のそれも震えて中にじんわりとあたたかいものが流れ込む。
 一瞬、何を言われたのか理解出来ないというのに、感情だけは瞬時に先輩の言葉の意味を理解したのか目尻から涙が溢れた。
 ずっと悩んでいたこの気持ち。その答えは、愛だったのだ。
 愛してる。その言葉がやっと言える時が来たのだ。
 ぐちゅり、と音を立てて抜かれた先輩のそれと共に私の中から先輩の白濁が零れ落ちる感覚に全身が震えた。
 早く、早く私も言わないと。そう思うのに、私の瞼は落ちて来てしまって。
「私も、愛してます」
 微睡みに落ちる寸前に掠れた声で囁いた私の愛は届いただろうか。届いていたらいいな。
 そう思いながらも私は睡魔には勝てず、瞼を下ろした。
 そういえば、こっそり数えたあの十一本の薔薇にはどういう意味があるのだろう。明日、起きたら調べてみよう。
 先輩の香りに混じる薔薇の香りを肺いっぱい吸い込み、私は夢の世界へと旅立った。



131212
倉酢さんに誘われて【真江薔薇企画】に参加させていただきました。
薔薇11本、最愛がテーマです。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -