熱中症
目眩がする、立ちくらみだ。足がもつれて、倒れそうになる。でもあ、倒れる、って思った時に、誰かに身体を支えられた。


「おい、どうした」


目がチカチカする。細めた目でうっすらと見えたのは赤色で、赤色といえば一人しか思い浮かばない。


「カイト」
「……ん」
「しっかりしやがれ」


汗ばんだギャモンの腕がオレの身体を揺さぶる。やめろよ、という意味を込めて顔をしかめた。


「…っと、悪ぃ」


オレの思考が伝わったようで、直ぐ様揺さぶりを止める。額に張り付いた髪を指で避けられると、視線が交わった。


「カイト」
「…暑い」
「暑い?…あー…熱中症か」


やっと出た言葉を理解したギャモンは、そう言った途端にオレの身体を抱き抱える。それは俗に言うお姫様抱っこっていうやつで、しんどいオレは止めろとも言えない。抱き抱えられたままどこに連れて行かれるのか、そのままギャモンに連れられて。気づいたら涼しげな木陰にいた。


「ほら、水」
「んー…」


人気のない静かな木陰の芝生に座らされて、水を差し出される。だけど手に力が入らないし腕を上げる事すら億劫で、ただただペットボトルの水とギャモンを交互に見る事しか出来なかった。


「…ったく」


顎を掴まれたかと思ったら、ギャモンは勢いよくペットボトルの水を飲み出して。不思議に思って首を傾げると、ぐい、と唇を重ねてきた。


「ん、…っく」


口内に流れ込んできたのは生ぬるい水で。吐き出す事も出来なくて、口の端から少量のそれが流れ出る。だけどギャモンは唇を離す気は全然ないようで。仕方がないからコクリ、とそれを飲み込む。


「んくっ、ふ…っ」


飲み干したそのあともやっぱり唇は離れなくて。深いその口づけに、また頭がくらくらしてくる。


「…っは、大丈夫か、カイト」


やっと唇を離したギャモンはオレの頭を撫でながらそう言う。熱い息を吐き出して、オレはゆっくりと口を開く。


「…殺す気かよ、アホギャモン」


笑いながらそう言って、ギャモンの胸元に顔を埋める。暑いけれど、それが心地いい。


「でも…ありがとな」
「おう、次から気をつけやがれ」


ギャモンに頭を撫でられて、心臓の音を聴きながら。もう少し、と目を瞑った。



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