根実
「あ〜やんなっちゃう。どうしてあたしがこんなゴリラと一緒に帰んなきゃいけないのよ…… 」


午後八時。部活を終えたアタシとこのゴリラ……永吉は帰路についている。


「どうせなら征ちゃんと湯豆腐デートにでも行きたかったわぁ」
「……しょうがねぇだろ?赤司は委員会の仕事で忙しいっつー話だし、小太郎はこの前のテストの補習らしいしよ……」


ーーーそんなことわかってんのよ


……わざと言ってることくらいわかりなさいよ 。


「……ってゆーかまた牛丼?」
「いいじゃねぇか、うめぇんだしよ。ってかお前も好きだろ?」


ーーーうん。『好き』……










「いらっしゃいませぇ、お二人様ですかぁ?」


店内は騒がしく、サラリーマンから家族連れまで様々で、男二人、それがゴリラとカマなら尚 更に目立つ訳で……


「なんかさっきから見られてねぇか?」
「そりゃあテーブルに牛丼メガ盛りが20杯も 乗ってれば誰だってこっち見るわよ……」


ふーん……。関係ない。そんな顔をしながらも 、どこか周りを気にしているようではあった。


「ってか食わねぇのか?食わねぇなら俺がくっちまうぜ?」
「わかってるわよ。」


自分の分は永吉ほどではないが、特盛だ。

ーーーだってこう見えてもオトコのコだし。

ーーー……あら?

いつもならテーブルにのってるはずのないあるモノがあった。

ーーー付け合わせの『冷やっこ』?


「ねぇ、これあんたの?……たまにはヘルシーなのも食べるじゃない。」
「いや、俺のじゃねぇけど……?」


ーーーえ?

なに?店員の間違い?……もう。


「すい……っ」
「お前のやつだから、」


挙げようとした手は永吉によって制され、じっと見つめられた。

アタシの分?

……っ!?

店に入るまでのことを思い出した。


『なんなら湯豆腐デートでもーーー』


……そんなまさか……ね、

気づかれていない自信はあった。それでも、自分や相手を誤魔化すのは得意だから……


「……食わねぇなら俺が、」
「食べるわよ!!」


そうか、そういって無邪気に笑った永吉に胸がツンとする。

ーーーワガママになってもいいのかしら……。










「ゲェッフッ!!……うまかったな」
「ちょっと、汚いわよ!!」


帰りは午後10時前、辺りはだれもいない。静か ね……

……今なら、


「今度は湯豆腐連れて行きなさいよ」
「はぁ!?んなもん行けるわけねぇだろ?高校生めんな」


ズキッ


「明日も冷やっこ奢ってやるから我慢しろ」


『明日も』


「……フフッ、」
「なんだよ、仕方ねぇだろ!!小遣いは全部コレに消えてんだからよ!!」
「違うわよ、楽しみにしてるわ」


背伸びしなくてもいいわよね……だって高校生だもの、ね?


「『明日も』楽しみにしてるわ、永吉。」


明日も、これからも……君の隣に。










fin

『安い恋』



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