ありふれてる大切なこと
体育館から、卒業生の名を先生が呼ぶ声が聴こえてくる。


恐らく、今は卒業証書授与式。


この後別れの歌で定番の曲を歌うのだろう。


でもそこに、オレはいない。


最後の最後まで手のかかる生徒だって、自覚はしてるさ。


でもそんな気分じゃないからね。


屋上の扉を開けると、肌寒い風が吹いていた。


コンクリートの上を進み、くるりと踵を返して振り返る。



「やっぱり、君も出ないんだね」



先客に声をかけると、壁に背をもたれて座るそいつは閉じていた瞼を上げた。



「卒業出来ただけでも奇跡なのに」
「…最後の日まで、手前の顔拝む事になるなんてな」
「あれ、怒らないんだ」



珍しく怒らないシズちゃんは、なぜか少し微笑んでいるように見える。


それが不思議で、首を傾げる。



「手前こそ、なんでここに来たんだよ」
「オレは式に出る気分じゃなかったからだよ」
「はっ、式に気分とか無ぇだろ」
「そういうシズちゃんだって」



まぁな、と呟いて。


シズちゃんは頭を掻いた。



「勉強、ありがとな」
「うわ、シズちゃんがお礼言うとか有り得ない」
「手前…殴るぞ」



暴言を吐いても、その表情には怒りが感じられない。


こんな事は初めてで、なんだか居心地が悪い。


なんか、変だ。



「…なあ」
「え?」
「最後、だな」



最後、って、何。


学校生活?



「手前と会うのも、こうやってここで話すのも」



まるで一生の別れのように、一言一言紡がれる言葉。



「え、どうしたの突然?」



急な事にわけがわからなくなって、焦る。


それでもシズちゃんは言葉を続けた。



「…もう、喧嘩も出来ねぇな」



それはオレの胸に突き刺さり、チクリと痛みを感じさせる。



「俺さ、お前と喧嘩止めてからなんか物足りなくってよ」



変だよな、なんて。



「…そんなの、」
「ん?」



今更、そんな事。



「そんなの、オレだって…っ」



馬鹿じゃないの?


やっぱり君の行動は理解出来ないや。


いつもそうやって、オレを振り回す。


期待させて、裏切って。


しかもこんな日まで。


じわりと視界が歪んだら、もうオレにはどうする事も出来ないのに。


君のせいだよ。


オレは弱くなった。



「泣くなばーか」
「泣いてないしっ、ばかはシズちゃんでしょ…っ」



諦めた想いが溢れ返ってくる。


それはまるで、涙と同じ。


忘れた感情と、しまい込んだ気持ち。


全て全て晒け出すように、溢れ出てくる。


そしてたどり着いた答え。



「…っ」



やっと、やっとだ。


今頃気付いたよ。


オレがずっと欲しかったもの。


それは君との繋がりだ。










ありふれてる大切なこと










もう叶わないかもしれないけれど、



「ねぇ、シズちゃん」
「なんだ?」



オレはまた、君と喧嘩がしたかったよ。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -