貴方の声が聴きたいの 死に際に、貴方の声が聴きたいんだ。そう言えば、怪訝そうに眉間にシワを寄せて珍しい表情をしたのは最近恋仲になったばかりの剣聖だ。胡散臭さはどこへやら、不機嫌を含んだその表情は何か言いたげで僕を見る。 「…どうしたの急に。死なないでよ、自殺願望なんかないでしょ」 「たとえばの話だって」 「たとえばでも、そんな事軽々と言うもんじゃない」 特に俺の前では。じゃあシエテの居ないところでは言っていいの、なんて。屁理屈みたいだと、シエテの表情がまた歪む。だんだん悪くなる機嫌に苦笑いして、その胸元に額を押し付けて背中に腕を回した。好きな人の声が、最期に聴きたいって願うくらいは許してよ。だからそんな悲しそうな表情しないで、そんな表情させたかったわけじゃないんだ。なだめるように言い訳をしながら、冗談ぽく笑う努力をする。上手く笑えないのはいつもより気落ちしているからだった。 「(でも一度は死んじゃってるからなあ…)」 旅の終わりのその後の事はわからないし、そもそもそんな先まで自分との関係を続けてくれるのかもわからない気まぐれな男の事もわからない。何もわからないけど、僕が死ぬのは嫌らしい。それが少し嬉しくて、ああやっぱり最期は声が聴きたいと改めて思う。彼がどうであれきっと僕の想いはそれまで変わらないだろうから。 「やっぱり最期は声が聴きたいよ」 「…グラン」 「この先何か変化があったとしてもだよ、僕は最期にシエテの声が聴きたい」 「グラン」 もう聞きたくない、そんな意味を込めてだろうか。シエテは僕の顎を掴んでそのまま噛みつくようにキスをした。唇を舌先でなぞられれば自然に口が開く。唾液と唾液が互いの舌の上で混じり合う音が部屋に響く。じゅるじゅるとした、らしい音だ。じんわりと頬に熱が集まるのは恥ずかしいからか、それとも苦しいからか。こんな僕をまだ求めてくれるの。自己肯定感がだんだん低くなっていたのは事実だった。だから多分思考もネガティブで、それに付き合わせてしまった事になんだか申し訳なくなる。 「ちゃんと好きだから」 「…ん」 「信じてなよ、俺の事」 誰よりも胡散臭い男が真剣な眼差しでそう言った。どうしようもなく込み上げるものになんだか泣きそうになる。唇を噛み締めて泣くのを我慢していると、今度は触れるだけのキスが降ってくる。ずっとこうしていたいと思った。ずっと、僕の傍を離れないでほしいと思った。 「(ずっと、やっぱり、できるなら、最期まで)」 一緒に居てくれるのなら、僕は。死に際に、貴方の声が聴きたいんだ。願いが叶うなら、どうか最期まで一緒にいさせてよ。 |