それだけだ
この男とは一生相容れない、そう思っていた。端から見れば友人、自分達からしてみれば赤の他人。互いが互いに干渉する事もされる事も嫌う、考えている事もわからなければ知る必要もない。そんな関係だった、今となっては過去の話だが。それが依存関係になったのは多分高校最後の夏辺り、オレが刺されたあの日からきっと多分、こうなる事は運命だったんだ。死なせたくない、失いたくない。そんな感情が募りに募った結果、互いに離れられなくなってしまったのだ。ベッドに沈んだ背中、見上げるのは陽の顔。電気の逆光に眩むその表情はうっすらとしか確認出来ない。陽、と名を呼んで手を伸ばすとそのまま掴み取られる。抵抗する気はなかった。陽だって、酒を飲んでる訳じゃない。酔った勢いだって言い訳、後から言ったって通用しない。

「なんで抵抗せんの」
「必要ないだろ」
「わかってるんか、お前」
「わかってるから、受け入れるんだろ」

どうせこの先誰とも一緒にはなれない。人生の終着点、今際の際まで共に人生を歩むのはお前だろうから。ならこんな事、どうって事ない。お前となら、どうって事ないんだ。

「…仕方ないって顔してるけど」
「なら愛の言葉でも囁けって?それこそ白々しいだろ」
「感情籠らん言葉に意味なんてない」
「ならどうするんだ」

どうする、うん、どうしたらええんやろな。陽が笑う、眉を歪めて。押し倒したのはお前なのに、なんだ、覚悟も決めずにこんな事してるのか。お前が冗談で人をベッドに押し倒す人間だなんて思っていない、半端なのが嫌いな癖に、馬鹿だな。オレの事抱くつもりならいっそ無理矢理にとか、思わないのか。時間ばかりが経って、無言の空間に居心地が悪くなる。陽、オレ達そんな迷うような関係じゃないだろ。何躊躇ってんだ、なんでそんなに、自信なさげな顔するんだよ。

「陽、お前、オレの気持ちが欲しいとか言わないよな」
「…あ?」
「好きだって、言って欲しいのか、好きじゃなきゃ、オレの事抱く気にもなれないのかよ」

酷だなあ、ああなんて、酷なんだ。決して無理矢理じゃない、陽もそんなつもりはない。わかっているのに、理由を明示されなきゃ先にすら進めないのか。お前こそ、オレの事好きだとか、そんな感情ないくせに。縋りたいだけだ、ただ、縋りたいだけ。傍にいる為の理由が欲しいだけなんだよ。ふと我に返った時、「なんで俺達一緒にいるんだろうな」って、ならないように。オレ達は所詮、藍子がいなかったら交わるはずのない人間だったんだ。『同級生』に留まって別々の道を歩む、お前はもしかしたらあの日藍子と共に死ぬ運命だったのかもしれない。オレが藍子と付き合っていたから、お前が藍子の幼馴染みだったから。そうじゃなきゃオレ達は、今もきっと、別々に生きていたはずなんだ。そんな人間が今更、愛し合って、育んで、好き同士でもないのに無理矢理理由を探す必要もないだろ。

「好きとか、そんな言葉いらんよ、けど」
「けど、何」
「俺は…お前が、明帆が欲しい」

欲しい、それだけが理由。それだけが全てだと、陽は言う。好きだからじゃない、愛し合いたいわけでもない。ただ『明帆』が欲しい、それだけ。

「オレはお前なんて欲しくないけど」
「お、ま…ここでんな事言う?」
「…でも、陽ならいい」
「は…なんや、それ」

欲しいだけが理由、そんなお前だから受け入れたいんだ。変に理由を探すより、正直に求められる方が断然いい。これだけなら身体だけが目的なんじゃないかと聞こえは悪い、けど、オレ達の関係なんてそんなもんだろ。本能に近いんだ、まるで運命の番のような、そんな感じ。

「手始めにキスでもしてよ」
「なーんか慣れとんな」
「慣れてるもんか」

キスするだけじゃ物足りない。初めてなのにどこか安心するのは、お前だからだよ。久々の人肌に身を委ねて指を絡める。もう後戻りは出来ないな、なんてのは後悔の理由にすらならなかった。



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