恋をしていた
恋をしていた。


「最近白澤様って、衆合地獄行かれなくなりましたよね」


それはもうまるで、今まで女癖の悪い僕の行い全てを帳消しにしてしまうようなほどに。とても本気なのだ、自分でも驚くくらいに。とても恋い焦がれているのだ、自分でも信じられないくらいに。思えば、今まで自覚しなかったのが馬鹿みたいだ。それは一目惚れも同然だったのに。
本当は、初めて会った時から綺麗な子だとは思っていたんだ。大人になったらいっそう美人になってさ、ほんと。黙ってたらきっともっとモテるのに、けど多分黙ってなくてもモテるんだろうけどね。まあ、それがアイツの長所であり短所なんだから仕方無いけど。罵声や罵倒を容赦なく僕に散々浴びさせられるのはきっとアイツだけだ。仮にも神獣である僕にだ。だけどそんな僕がたとえ何者であっても、きっとアイツには関係なくて。気に入らない、それだけの理由で十分なのだ。上官でさえもアイツにはまるで頭が上がらないのは大したものだろう。おしとやかで守ってあげたくなる華奢な女の子が好きだった。勝ち気で強気で力強い、横暴で乱暴なアイツを好きになった。どちらとも似ても似つかないタイプの女の子なのに。なんでかなあ、やっぱり好きだ。


「まあねー、僕にもそういう時があるっていう事だよ」
「へぇ…珍しい事もあるもんですね。まさか本命が出来たとか?」


喧嘩するほど仲がいいってよく言うけれど、僕達はそこから恋愛に発展するどころか始まる事さえも許さないような関係だし。漫画みたいにそう簡単にはいかないから恋愛って難しいんだ。だからそうなれないならいっそのこと身体だけ、ってのもあるけれど…うん、まあ、やっぱり心が欲しいから。


「…桃タロー君て肝心な事には疎いのにこういう時だけ核心をついてくるよね」
「えっ、冗談のつもりだったのにマジなんすか!?」


うまくいかないって、だから恋愛ってそういうもの。簡単に終わらせる事が出来ないから、簡単に始める事が出来ない。だから恋愛なんてしたくない。だから本気になんてなりたくなかった。本気になったら困るのなんて自分しかいないのに。それでも、やっぱり、嗚呼。こんな想いが生まれたら、始める事以外に何が出来るのか。抑えきれない想いが、溢れだしてくるのを止める術を僕は知らない。けれど恐れているのだ、始める事を。怯えているのだ、始まる事を。


「あ、白澤様、携帯鳴ってますよ」


願わくば、これが最後の恋であるように。


「…ちょっと、地獄に急用出来たみたいだから行ってくるよ」


叶うなら、これが最後の恋であって欲しい。



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