リヴァ←エレ リヴァイ兵長は『憧れの人』だけど、『好きな人』じゃない。そうずっと、自分自信に言い聞かせてきた。だってそうじゃないか。『憧れ』が『恋』に変わるだなんて、赦されない事だ。だからオレは、兵長に恋なんてしない。 「おい」 うわの空でぼーっとしていたら名前を呼ばれて、顔を上げるとオレを呼んだ本人である兵長と目が合った。テーブル越しに急に呼ばれた事を不思議に思い首を傾げると、兵長はゆっくりと口を開く。 「行きたかったか」 「え?」 どこに、って。思ったけどそういえばつい先程リヴァイ班のみんなが買い出しに出掛けた事を思い出す。オレと兵長は留守番だ。 「いえ…オレは別に、」 「……」 「行っても迷惑がかかるだけですし」 行きたくなかったわけじゃないけれど、巨人化なんて自分にその気がなくてもいつするかわからないから。仮に行ったとしてももし暴走したりしたらそれこそ大惨事だ。兵長が同行するなら心配はいらないかもしれないけれど…こんなくだらないオレの我が儘で兵長に迷惑をかけたくはない。 「エレン」 ギィ、と兵長の座る椅子が軋む。兵長は指先で「こちらに来い」とでも言うようにオレに促した。おずおずと椅子から立ち上がり兵長の目の前に歩み寄る。 「屈め」 「え?」 「さっさとしろ」 言われた通りに膝を折る。何をされるのかと内心ビクビクしながら兵長の次の行動を待った。だけどそんな思いを覆すかの如く、兵長はオレの頭に手をおいてくしゃりと撫でたから。拍子抜けして、瞬きを繰り返した。 「兵長…?」 「クソガキが、一丁前に意地張ってんじゃねぇよ」 この人にしてはゆっくりした動作で。オレの頭を往復する手のひらは心地いいはずなのに、こんなに苦しくなるのはきっと今まで以上に優しくされたからだ。こんな兵長を、オレは知らない。 「行きたいなら素直に言いやがれ」 別に行きたかったわけじゃない。行きたくなかったと言えば嘘になるかもしれないけれど、駄々を捏ねるほど強い念は抱かなかった。オレはもっとそれ以上の我が儘をこの胸に抱いているから。だけどそんな、オレはあなたに迷惑なんてかけたくない。だから言わないんです、あなたがそれを知らないだけで。これも我が儘だってわかってる。けどそうすれば、あなたに迷惑をかけないから。なのに。 「お前とは死ぬまで離れらんねぇんだから」 オレが言わないとわからない、なんて。リヴァイさん、オレは別に、みんなと出掛けたかったわけじゃないんです。たとえあなたがオレのどんな我が儘でもきいてくれると言ったとしても、この我が儘だけは言うつもりはない。これはオレの最上級の我が儘なんです。ねぇ、兵長。 「…エレン?」 巨人化するオレに気を遣うあなたの優しさは、オレにとっては苦痛でしかないんです。オレだけが特別なんだと思ってしまうから。淡い期待を抱いてしまうから。きっとあなたは、そうやってさりげない優しさを振り撒いてきたんだ。オレにも、だから。好きです、だなんて。思ったオレはあなたにとって決して特別な存在にはなれない事を知っているから。だから言わないんです。所詮オレの我が儘はあなたに迷惑をかけるだけだから。だからオレの『我が儘』は、決してあなたに届く事はない。だからオレは、あなたに『恋』なんかしたくなかった。「ごめんなさい」なんて何度目になるかわからない。でもオレは結局、リヴァイ兵長。あなたはオレの『好きな人』なんです。 |