単純な男
「緑間」


自分の名を呼んだその人物は、自分よりも低い身長とは対象にとてつもない威圧感を放っていて。


「お前は、オレには勝てない」


まるでそれが運命…いや、当たり前だとでもいうように。笑みを浮かべながら呟くものだから。


「…決めつけるな、そうとは限らないのだよ」


いい気はしなく、眉間に皺を寄せて目の前の男を睨み付ける。


「限らなくない、これは当たり前の事だからな」
「っだから、決めつけるなと…っ」


不意に交えた視線に、殺されるんじゃないだろうかと思った。それほどにこの男の眼光は鋭く、ゾクリと背筋が強張る。


「決めつけるも何も、当たり前の事なんだから仕方ないだろう?オレは敗北を知らないし、間違った事は言わない。正しい事しか言わないオレの言葉は全てが正しい、そうだろ緑間?」


何が間違っているんだ、むしろ間違っている事が間違っている。嗚呼、そういう奴なのだ、この男は。いつでも自分を中心に世界が回っているとでも思っているのだろう、それが運命だというように。運命には決して逆らえない。だからこそ運命なのだ。


「緑間」
「なんなのだよ…っ!!」


気づけば赤司の顔が視界を埋め尽くしていて、押し当てられた唇。触れるだけのそれが離れると、得意気な表情の赤司と目が合う。


「ほら、王手だ」


クスリと妖艶に笑いながら、パチリと将棋の駒を打つ赤司。また、負けてしまったようだ。


「…次は勝つのだよ」
「楽しみだな」


そんな気毛頭ない癖に。敗北を知らないこの男はやはり負ける事などあり得ないとでも思っているのだろう。


「いずれ、お前に敗北を味わせてやる」


睨み付ければ返ってくる笑み。嗚呼、俺もつくづく単純な男である。



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