愛だと言い張る戯れ言を
身に沁み付いた癖というものはなかなか自分ではどうする事も出来ない。「世一」と名を呼べば必ずと言っていいほど出てくる挑発じみた煽り文句は度々奴を不機嫌に仕立て上げる。ああ違う、そんな表情をさせたいわけじゃないんだが。こんな調子じゃ到底自分に笑顔を向ける事など未来永劫実現しないだろう、理解っているのにそんな事くらい。拗れに拗れた自分の性格など自分が一番良く理解している。これを愛と呼ぶものだとすれば俺なら願い下げだと世一と同じ表情をするだろう。他人の愛し方など知るものか、俺も大概不器用な人間だと心の中で嗤うのは今になって初めてじゃなかった。慈愛の心など持ち合わせてはいない癖に、愛を知らずに愛を語ろうとするのが間違いなのだ。まるで愛を知らずに育った子供のようだと嗤えばそれはまああながち間違いではないと納得した。羨望や嫉妬も所詮俺にとっては名前の違う愛と何ら変わりない。どんなカタチであれ向けられたものを全て愛と捉える事になんの疑問も抱けないのだから。故に憎悪や殺意すら愛と呼べば俺は納得するだろう。愛の本質など俺は知らない。それが背後から刺されようが喉を掻っ切られたとしてもだ、それもまた異なる愛のカタチなのだ。向けられる感情全てに愛を見出す、俺は無関心以外の感情全てに愛と名付けていた。

「(興味無ぇもんに愛なんて抱くかよ…)」

だから興味を促すんだ、俺を視ろと。俺だけを視界に映し俺の事だけ考えていればいい。世一にとっては鬱陶しいだけでしかないだろうが感情を向ける事に対して愛を見出している俺にとっては世一がどう思っていようがどうでもよかった。何でもいいから俺に感情を向けろ、俺だけを意識しろ。まるで恋患いのようだがかと言って別に世一にそういった想いを抱いているわけじゃない。ただ俺が興味をそそられただけ。なのにその笑顔が見たいだなんて矛盾してる。

『愛してる』

なんて虫酸が走る言葉この上ない。世一が俺に笑顔を向けながら言う想像がつかなければまだ「殺してやる」と言われた方がマシだと思った。殺してやる、そう言って刃物を向ける想像なら容易なんだが。世一がそれで満足するなら刺される事すら受け入れようか。そう思えるくらいには世一に固執しているのだとそれが俺の愛のカタチなのかもしれない。星の数ほど存在する人類のなかで世一は唯一俺に『愛』を抱かせたんだ。愛が消え去るまでその責任は取ってもらわなくちゃなぁ、なんて思い始めていつもの調子が戻りつつある事に気付く。早く世一の顔が見たい。

「…世一」

俺はお前に殺されたいのかもしれない。無惨にも喰い殺され、まあ敗北するつもりは毛頭ないが。俺の舞台で踊り狂うクソ道化、そんな道化に引き摺り降ろされ喰い殺される憐れな主役。お前の一部になりお前と共に生きる事に愉悦を抱く、そんなクソみたいな台本はクソお断りだが現段階で先の事など予測は出来ない。未来など誰にも解らない、だが世一に喰い殺されるくらいならいっそ俺が喰い尽くしてやる。共喰いもまた演出だ。俺が強くなる為の糧でしかない奴等の為に俺の舞台で憐れに踊れよクソ道化。

ーーーああ、これが愛か。

大概俺もイカれたもんだ。初めての感情に心が踊り昂ぶる。世一、ヨイチ、よいち。俺がこの手でお前をグチャグチャに愛してやろうじゃないか。俺が、お前の行く末をこの目で見届ける事が出来るというのなら。
俺はなあ世一、出来る事ならお前と添い遂げたいんだよ。



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