いつか、貴方へ
雷市と付き合っている、なんて思っているのは自分だけなのかもしれない。キスとかそういうのはした事ないし、そもそも互いに隣にいるので精一杯って感じで。手を繋ぐ、オレと雷市が?ってそのレベル。なんていうか、それ付き合ってんのかな。というか付き合っている、っていう確信が無いんだ。やっぱり勘違いかもしれない。

「いーさぎ!!」
「わっ危な…て蜂楽?!」

急に背中に感じる重みにバランスを崩す。転ばなかったけれど、蜂楽はオレの首に腕を回して抱きついたままだ。風呂上がり、さっきまで全裸だったのにもう服を着て偉いぞ、なんて思って苦笑いする。

「うわの空じゃん、なんかあった?」
「え、いや…なんもないけど」

そんなに顔に出てたんだろうか、雷市との事で悩んでるなんて口が裂けても言えないけれど。なんとなく、蜂楽には全部見透かされているような気がしてならない。人肌が温かい、不意にそんな事を思って。蜂楽の体温に心地良さを感じて雷市の顔が浮かぶ。これぐらい、あいつともくっつけたらいいのに。

『好きだ』
『お、オレも』

まだそれだけの認識、関係。何かが始まったのかも定かじゃない。互いに好きって事以外何もわからない。出会って日も浅いし、一目惚れ?雷市はオレに何を思ってそんな事を言ったんだろう。どうして「オレも」なんて言ったんだろう。嫌な気は、しないけど。やっぱりこれ、付き合う以前の問題じゃないか。

「おい」
「あ」

声がほぼ同時に重なる。蜂楽と、不機嫌そうな雷市の声。あっけらかんとした調子の蜂楽と今にも爆発しそうな勢いの雷市に挟まれて、気まずいったらありゃしない。

「あらら、嫉妬だ」
「え」
「はぁあああ??」

あ、やっぱりバレてんだな。けど嫉妬ってなんだ、雷市がオレに?当の本人はめっちゃキレてるけど。まわりがザワつく前に、慌てながら雷市の背中を押してここから立ち去ろうと試みる。

「ごめん蜂楽」
「いいよいいよー」

離れた蜂楽がひらひらと両手を振る。なんか楽しんでないか?てかこうなる事わかってたんじゃ?まあ今はそんな事より、とりあえず雷市をなんとかしないと。半ば強引に背中を押して廊下に出る。目に入ったモニタールームに押し込んで、誰もいない事に安堵して二人で中に入った。

「あークソ、腹立つ」

イライラしてんなあ…なんて、蜂楽の言葉を思い出す。本当に嫉妬したのかな、ってそわそわする。なんていうかむず痒い、これが『独占欲』ってやつなのかな。好き、なんだもんなあ、オレの事。自分の事は棚に上げて、そんな事を思う。まあオレも多分、雷市が女の子と喋ってたりしたら嫉妬するかもしれないな。ここに女の子いないからわからないけど。

「…なあ雷市、オレらって付き合ってんだよな?」

違うって言われたらショックだぞ、とわざと上目遣いで雷市を見上げる。付き合ってるから、そうやって嫉妬して苛ついてんだよな?

「おめぇはどう思ってんだよ」
「え、オレは付き合ってるって思ってる、けど」
「ならそうなんだろが、くだんねぇ事聞くな」

肩に、雷市の頭が乗る。甘えてるみたいでなんだか嬉しい。気が抜けたのかなんなのか、オレを堪能してる?みたいな。これが世に言う『充電』ってやつか。思わず背中に腕を回して、頭を撫でた。ぴくりと雷市の身体が反応したけど、何も言わずに撫でられるままだ。抱きしめて、頭を撫でて。なんかこれ、すっごい恋人っぽいな、なんて思った矢先に視界に監視カメラが映る。絵心に見られてるかもって思ったら気が気じゃなくて、でも離れるのはなんか嫌で。「青い監獄内は恋愛禁止でーす」とか言われんのかな、とか色々考えてしまう。…けど意外と律儀な雷市だから、この先はきっと何もしないんだろう。ここは青い監獄だ、サッカーしに来てんだよって。恋愛とかしてる暇じゃないのはもっともだ、だからここから出るまで「好きだ」だけを貫くってのは雷市の意志。好きだ、それだけ。それだけを言って、だから付き合っているのかわからなかった。

「…理性で耐えてんだよ、俺ぁ」

まるで心を読んだみたいに雷市が呟く。わかってるよ、ちゃんと。ああこれが大事にされてるってことなのかもしれない。やっぱりオレも好きだ、雷市のそういうところ。好きの意味も、どうしたいのかも。これからたくさん知れたらいいって思う。だから今はまだ、互いの『好き』だけで十分なんだ。

「雷市はすごいな」
「だろ、もっと言っていいぜ」

抱きしめながら頭を撫でて、キスだってできる距離にいるのにそれをしないで耐えてるって、オレも見習わなきゃだな。欲求不満とかはまだないけど、いつかはそういう事をする日がくるんだろうから。雷市が、それまでオレを好きでいるならだけど。…でも、

「(オレの『好き』も、多分嘘じゃないから)」

それまで待てるよ、オレも。だってオレも雷市の事が大事だから、雷市の気持ちも大事にしたいから。だからオレから雷市への『好き』は、その時にでも伝えようかな。



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