曝す心
意識し出すのはタイミング、だと思う。今まで普通に仲間だと思っていたヤツが急に、とか。何かしらのきっかけでそういった対象になるのは多分、あり得ない事じゃない。だって、オレがそうだから。

「(あ、)」

誰が自分の事を嫌いだと思っているヤツを好きになるのか、誰が自分の事を嫌っているだろうってヤツに恋なんてするのか。人生はわからない、だって簡単に覆るから。例えば、なんだかんだ文句を言いながらもいざという時頼りになってくれたりとか。普段横暴なそんなヤツの、オレに触れる指先が意外に優しかった時とか。考えれば考えるほど、意外な面を見つけたりするのが楽しくて。気づけはそいつの事ばかり考えて、好きになってたんだ。…まあ初めから終わってるようなもんだけど。男同士だから、多分気持ち悪がられるのは当たり前だ。そもそもここから出たあとは?出会える確率も、保証もないのに。どっちもこの場所で生き残れるかなんてのもわからない、だったらこんな場所で恋なんかするのが間違いだったんだ。諦めてしまえばいい、最初から無かった事にすればいい。心を曝け出さなければ、気付かれる事もないんだから。けど…けどだ。生まれてしまった心も、作り変えられてしまった思考も簡単には変えられない。だって確かにここにある、オレがあいつを、雷市を好きだって気持ちは誰にもどうする事も出来ない。

「(だったら、思い出くらいにはさせてくれよ)」

起きてるお前に言えない言葉に想いを乗せて。ただひと言「好きだよ」って耳元で囁くくらい許して欲しい。誰にも聞かせたくない、お前だけに聞いて欲しかったオレの心。抗えない衝動と気の迷い、けど泣くより先に言えて良かったって思うよ。

「…お前」

だからお前が気づく前に離れなきゃいけなかったのに。暗闇で目が合う、そんな事想定外で。押し殺した心が溢れる、涙といっしょに。

「泣くんなら言うんじゃねぇよ、んな事」

驚いて目を見開く、お前に落ちる涙を拭えなくて。また、お前の優しい指先に触れられる事が嬉しくて。途端に漏れる嗚咽を必死に堪える。気づかれた、知られてしまった。言葉が出ないまま泣くそんなオレを、雷市は自分の布団に引きずり込んで抱き締める。

「バカだ、お前ェマジでバカだ」
「うぅ、らいち、なんで…」
「うっせ黙ってろ」

皆が寝静まってる、こんなところで雷市こそらしくない。突き放せば皆にバレてしまうのに、そうしないのはなんでなんだろう。オレの事嫌いじゃないの、めんどくさくねーの。…オレの事、気持ち悪くないの。そんな事を考え続ける思考が止まらない。強い力で抱き締められる、これは夢なんじゃないかと錯覚する。ねぇ雷市、オレまだお前の事好きでいていいの。そんな希望を抱いて、失望するなら早く返事が欲しいのに。高鳴る心臓の音はオレと雷市のどっちのなんだろうって考えて、結局また涙が出る。雷市の服を濡らさないように顔を離そうとすると、頭に添えられた手によって無理矢理顔を胸元に押し付けられた。

「潔」

さっきより強い力で抱き締められて。痛いのに、苦しいのに、やっぱり好きで好きで堪らなくて。本当はずっと一緒にいたいんだって言えればいいのに。ただ抱き締め返す事で精一杯で。

「好きだよ、雷市」

雷市の胸元でまた心を曝して、また泣いて服を濡らす。そんな事お構いなしっていうみたいに、雷市の腕の力が強くなる。聴き間違いじゃなかったら多分、頭の上で「俺もだよクソが」って雷市が言った。



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