泡沫
意識という概念を心から殺せれば、こんな想いはしないですんだのかもしれない。情があるから苦しいんだと理解して、こんな自分にもそんなものがあったんだなと感心したのはもう何年も前の事。

『デンジ』

そうやって優しげな声音でオレの名前を呼ぶ男が好きだ。自覚すれば患うだけで、そっからどうこうなるわけもなくただただ時間だけが過ぎていった。元々感情が顔に出にくいのもあってか、こんな想いを本人に悟られる事もなくて。オレが何もしなければこのまま墓場まで持っていくだけで終わるはずだった。

「デンジ」

泡のように消えてくれればよかったんだ。何事もなく過ぎ去る日々のなかで、お前だけを想う事を許してほしいと願うばかりじゃオレの心はおさまらなかったから。息もできずにもがき苦しむ人生ならばいっそ終わってくれればよかったのに。ただすぐにお前が好きだって吐き出せればどんなに楽だっただろう。

「何見てんだよ」
「…お前を、見てた」
「はは、そんな顔でか」

元々感情が顔に出にくかったのに。お前のせいで、オレは弱くなってしまった。好きだった時間が長すぎたからって何も変わらないと思っていたのに。こんなにも女々しくなるなんて知らなかったんだ。

「オーバ」
「ん、どした?」
「…苦しいな、やっぱ」

泡のように消えるはずだった儚い想いはずっとオレを苦しめ続けてる。今だけが幸せだなんて思いたくなくて、目の前の男の顔が見れないまま胸元に頭を押し付けた。好きだ、ずっと、昔から。今でもずっと、お前だけを想ってる。叶うならずっと、このままで。



《君の隣で息がしたい》



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