もしも
もしも。


もしも、あの日シズちゃんの作ったカレーを残さず食べていたら。喧嘩なんかしなかったのかな。『いらねぇなら食うな』って、あんなしかめっ面しなかったのかな。


もしも、オレにもシズちゃんと同じような力があったなら。君と対等でいられたのかな。オレは強くいられたのかな。


もしも、オレが一人じゃなかったら。君に出会う事はなかったのかな。君を知らずに、生きていたのかな。


もしも、オレがシズちゃんと出会ってなかったら。今のオレは、いなかったのかな。


もしも、
もしも、
もしも。


君に対する、オレの『もしも』は。こんなにもオレの頭の中を埋め尽くす。
退屈だった日々は、君がいたから退屈しなくなった。
君が退屈な日々を打ち破ってくれたから。


『君のおかげだよ』って。


もしもオレが嘘つきなら。言えないオレを君は叱ってくれただろうか。
けれどあいにくオレは嘘つきだから。
そんな事は言えなくて。


もしも『最後だから』って言えたならよかったのに。


もしも、
もしも、
もしも。


たくさんの『もしも』がいっぱいいっぱい溢れ出す。


オレは目を瞑って、耳を塞いで、歩き出す。
君の声も、君の笑顔もみえないけれど。それでもいいかも、なんて。


嫌な事ばっか頭の中から全部、これで消えてくれればよかったのに。


届くなら届いて欲しいのに。オレの言葉はシズちゃんには届かない。


もしもオレが正直者だったら。『これが最後だから』って言ったら、信じて君は笑ってくれたのかな。


もしも、君にまだ言葉が届くなら。君の所に行けたなら。オレの『声』を聴いて欲しいのに。『ざまーみろ』って膝が笑ってて、君の所にいけないんだ。


言えなかった言葉を言いたいのに。おかしいなって、笑えてくるよ。


届くなら届いて欲しいのに、だけど君には届かない。


だからオレはまた目を瞑って、耳を塞いで、歩き出す。
君の声も、君の笑顔もみえないままだけど。それでもいいかも、なんて。










もしも、オレが生きてたら。

君に言えなかった言葉を、言えたらいいな、って。



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