風邪です
「よお帝人ー!!…って」


突然玄関が開いたと思ったら、正臣が大声で入ってきた。せめてインターホンくらい鳴らして欲しかったのだが、文句を言う気力など今の自分には残っていない。


「まさおみ…なにしにきたの?」
「帝人こそ、なんだその格好…」


唖然とする正臣。なんだと言われても…見た目通りなんだよね。


「かぜだよ…っけほ、けほ」
「風邪…大丈夫か?」


ゆっくりと歩み寄って、正臣は布団の横に腰をおろす。私の額に手を添えながら、うーんと唸った。


「飯食ってる?」
「っけほ、たべてない…」
「食べないと治んないだろ…ていうか冷却シート熱い、新しいのどこだ?」
「えっと、れいぞうこに…」
「りょーかい、ついでに何か作るから、ちゃんと食べろよ?」


そう言って正臣は立ち上がり、冷蔵庫に向かう。冷却シートを取り出すと、私の額のものをはがして冷えたそれを貼ってくれた。


「ぅー…」
「とりあえず寝とけよ、俺がマッハで愛を込めてとびっきり美味いお粥作るから」
「し、しんけんなかおでさむいぎゃぐいわないでよ…」
「いやギャグじゃねぇし、てか寒いって酷いぞ帝人…」
「ふふ…っけほ、けほ」
「あー無理すんなって、とにかく、出来上がるまで寝とけよ?」
「ぅん…ありがと」


正臣の笑顔を見たのを最後に、ゆっくりと瞼をおろす。すぐに睡魔に襲われて、私は眠りにおちた。










微かに聞き取れた、自分の名を呼ぶ声。


「帝人」


その声に促されて目を開くと、目前に正臣の顔。とてつもなく近いのは気のせいだろうか。


「…ちかいよ」
「帝人の寝顔が可愛かったもんで」
「さむ…」


もぞもぞと布団から腕を出して正臣を押す。
にやにや笑う顔が怪しい。


「なにわらってんのさ」
「別にー?」
「…なんかやらしい」
「男は皆やらしいよ、てかむしろ今すぐにでもお前を押し倒したい気分」


真顔でこんな事言うんだから気が抜けない。
今は病人相手にそんな事しないだろうけど。


「…へんたい」
「褒め言葉だぜ」
「ばーか」


舌をちらりと突き出すと、正臣は更に怪しい笑みを浮かべる。


「帝人、誘ってんの?」
「べつにー」
「ああもう、帝人は可愛いなあ」


笑いながら布団の上から私を抱きしめてくる正臣。地味に痛い。


「あ、ちょっ、かぜうつるから…っ」
「平気平気♪寧ろ移してくれたって俺は喜んで受け入れるぜ?」
「ばか…」


こんな状況の私にも正臣は変な事ばかり言ってくるし、寒いギャグも言う。しかも痛い、けれど。


「まさおみ」
「ん?どうした、帝人?」
「…ありがと」


正臣がいるだけでこんなに心があったかくなるから。たまには風邪を引いてもいいかも、なんてね。
そう思うのはきっと風邪のせいだと、今は思いたい。





でも、


「帝人、あーん♪」
「…いいよ、自分で食べるから」


口移しだけはご遠慮願いたい、と本気で思いました。



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