ごめん、好きです
「正臣、今日はナンパしないの?」
「え、するに決まってんじゃん」


平気な顔して言う正臣に、ズキリ、と胸が痛くなる。


「お、女の子発見♪へい彼女、今から俺とお茶でもどう?」


そんな私に気付かずに、正臣は女の子をナンパしている。同世代くらいの、可愛いらしい、守ってあげたくなるような、大人そうな子。正臣は、ああいう子が好みなんだろうか。私なんかより、あの子の方が…


「あ、ねえってばー……あーあ、フラれちゃったぜ…まあ次だな、次…あれ、帝人?」


可愛いくて、守ってあげたくなるような、大人しい女の子。私とは、真逆。


「おーい、みかどー?」


なんだ私、全然正臣の好みに当てはまっていない。それなのにいつまでも、正臣の近くにいて、正臣の邪魔してたんだ。だから、ナンパばかりしてたんだ。


「帝人?」


なんだか私、馬鹿みたい。一人で空回りしてたんだ。最初から正臣は私に見向きもしてなかったのにね。


「…私も、ナンパしてくる」
「は?」


私ばっかり苦しむなんて不公平。気晴らしだ、私もしてみよう、ナンパというものを。


「ちょっと待て、なんだよ急に」
「別に?正臣だってしてるじゃん」


正臣に腕を掴まれる。止められる理由なんてないよ。だって正臣は、私なんか好みじゃないんだから。


「いや、だからってなんで…」
「正臣には関係無いよ」


私が誰とどうなったって、正臣はきっと、なんとも思わないんでしょう?


「なんだよ、それ」


掴まれた腕に力が篭る。鈍い痛みに、顔が歪んだ。


「関係無いって、何?なんで怒ってんの?」
「正臣、痛いっ」
「俺お前に何かした?」


なんで。
なんで正臣が怒るの?私なんかどうでもいいんでしょ?邪魔なんでしょ?


「なあ、帝人」


正臣が怒る意味がわからない。どうして怒ってるの?


「っ…正臣は、」


正臣にそんな顔、して欲しくない。そんな顔、されたくない。
嫌いに、ならないで…


「可愛くて、大人しい子が好きなんでしょ…?」
「え…」
「いつもいつもナンパばっかりで、」
「み、」
「私なんか知らん振りで、」
「みかど…」
「正臣は私の事なんか…っ!!?」
「帝人!!」


掴まれた腕をそのまま引き寄せられて、公衆の面前であるにも関わらずに。
私の身体は正臣の腕の中に収まった。


「ちょっ、正臣!!?」
「ごめん帝人、俺が悪かった!!」


周囲の目線が痛い。力いっぱいに正臣の身体を押すけれど、それ以上に正臣の力の方が強かった。


「やだ正臣、離してよっ!!」
「嫌だ」
「嫌って…っ離れないとほんとにナンパしに行くからね!!」


そう言うと離れる正臣。複雑そうな顔で、私の肩を掴んでいる。


「帝人…そんなにナンパしたいか?」
「ぇ…う、うん…」
「…俺じゃ、駄目か?」


…え?なんで、何言ってるの、正臣。


「ま、正臣は、私じゃない子が好みなんじゃ…」
「俺、ひとっ言もそんな事言った記憶ないんだけど」


寧ろ帝人が好みです。…って、


「じゃあなんでナンパばっかり…」
「申し訳ございませんでした」


いやいやこんな所で土下座されても…周囲の目線が痛いから。


「俺、こんな性分だから…帝人の気持ち全然考えてなかった」
「…っ」
「自分の事ばっかで…ほんとにごめん!!」
「もういいよ…顔上げてよ、正臣」


ぐいっとしゃがんで正臣の肩を押す。バッと顔が上がったと思ったら、


「俺も好きです」


だって。…ちょっと待って、


「俺も、って何、も、って」
「え、さっきの告白じゃなかったのか?!」


驚愕する正臣。いや、驚くのは私の方なんだけど。誰がいつ、告白したわけ?


「どっからどう考えても、さっきのは告白にしか聴こえん」
「胸を張るな、バカ臣」
「ええ!?帝人ひどっ!!」


クスリと、なんだか笑みが溢れる。時々苦しくなるけれど、やっぱり正臣といると、楽しい。


「正臣」
「ん?」


さっきの気分が、まるで嘘のよう。今なら言えなかった事も、素直に言える気がする。


「好きだよ」


だから今日だけ、素直にでもなってみようか。
驚く顔が見たいから。
笑った顔が見たいから。


「…俺も」


どんなに離れていても、どんな事になっていても。
この気持ちは、きっと変わらない。



やっぱり私は誰よりも、正臣が好きだから。



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