勇気をください
「臨也ぁぁぁぁ!!!!」





ドカーン、と漫画によくあるような爆発音。

何事かと振り向けば、そこにいたのは紛れもない怪力男。

かと言って、別に見た目は至って普通。

どちらかというと細い方。

そんでもって身長は高い。





「手前、池袋に来るなって何度言ったらわかるんだ!!」





まるで猛獣のような荒い息に、俺は至って冷静に答える。





「…別にシズちゃんに会いに来たわけじゃないからいいじゃん」





そう言って直ぐ様走り出す。

そうすれば必ず追いかけてくると知っているから。





「っざけんなぁぁぁぁ!!!!」





叫び声が辺りに響き、通行人は迷惑そうに俺達を見る。

嗚呼、またか。

そんな声が聞こえてきそうな気がした。





「臨也ぁぁ!!」





ひっきりなしに後ろからは自販機やら車やらが飛んできて、俺は踵を翻しながらそれを難なく避けていく。

飛び交ったそれは地面に叩き付けられ歪み、やがてガラクタとなった。





「あーあ。弁償しなよ、シズちゃん」

「手前を殴ってからなぁ!!」





追いかけてくるその形相はまるで突進してくるイノシシのようで、想像して少しだけ笑う。

でもイノシシというよりは、狼の方が合っているかもしれない。

もしくは大型犬?





「…あ」





あてもなく走り続けていたので、無意識に路地裏に逃げ込んだらしい。

そこは昼間でも薄暗く、じめじめとしていた。

しかも運悪く、行き止まりのようで。





「いーざーやー…」





振り返ると、にじりよる獣が目にうつる。

それはどんどんどんどん近づいてきて。

ジリジリ、ジリジリ。

ほら、もう目の前だ。

顔の横の、左右の壁に両手をつく。

黒い獣、大きな影が俺を覆った。

逃げ道は、無い。

俺はゆっくりと、顔を上げる。





「臨也」

「…ん」





すると降り注いだ唇が、優しく触れる。

怪力男には似合わない、触れるだけのキス。

俺達の周りだけが、異空間にいるとでも言うように閑散とした。





「…シズちゃん」





嗚呼これで、もしも想いを告げることができるのならば。

この手を、

この腕を、

伸ばすことができるかもしれない。

俺は静かに目を閉じて。





(誰か俺に、勇気を与えよ、だなんて…)





我ながら、らしくないことを考えた。



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