平和島さん家の臨也ちゃん ※静臨要素が無いに等しいです← 「怪我しちゃった☆」 「なーにが怪我しちゃった☆だよ、別に萌えないから、セルティなら別だけど」 変態闇医者岸谷新羅を訪ねたのは、折原臨也。 「変態は余計だけどね」 「気にしない気にしない♪」 「まあいいや…とりあえず座りなよ」 新羅に促され、臨也はソファに腰をおろす。 「運び屋は?」 「セルティは今仕事に行ってるよ」 「へぇ」 「で、どこ怪我したのさ」 「美脚」 旧友ほどではないが一瞬殴りそうになった衝動を抑え、新羅はグッと拳を握る。 「…手当てしてあげるからちょっと待ってて」 「了解っ」 無意味にテンションの高い臨也に若干苛立ちながら、新羅は薬やら包帯やらを取りに隣の部屋へ移る。部屋に一人になった臨也は、キョロキョロと辺りを見回した。 そしてテーブルの上の、一本のペットボトルに目がつく。 「そういえば喉渇いたな…」 無色透明の液体。きっと水だろうと勝手に解釈して、臨也はそれを手に取り一気に喉に流し込んだ。 ゴクッ 「あ」 隣の部屋から戻ってきた新羅。臨也が持つ、空のペットボトルを目にして声を漏らした。 「え、それ飲んだの?」 「ごめん新羅、喉渇いちゃってね…もしかして運び屋の飲みかけだった?」 「もしそうだったら君を軽く殺してるけど…いや、うん…」 「?」 臨也とペットボトルを交互に見る新羅。訝しげに窺いつつも、臨也は新羅の言葉を待った。 「あながち失敗でもなかったみたいだ」 「なにが?」 「臨也、身体に別状は無い?」 「…は?」 身体に別状とは何の事やら。眉間に皺を寄せる臨也に、新羅は有り得ない事を笑顔で言う。 「例えば、身体が縮んだとか」 「え」 「胸が膨らんだとか」 「な」 「股間に違和感…」 「いやあああああああ」 叫ぶ臨也。ここが変態闇医者新羅の家であるにも関わらず、不注意だった事を後悔した。 「あはははははは」 「笑い事じゃない!!え、中身なんだったの!!?」 「あれね、新発明の『性別転換薬』」 「なんでそんなもの居間に置いてるんだよ!!」 「君が来るなんて予想外だったからね、しまいわすれてたんだ☆」 「新羅ぁぁぁぁぁぁぁ」 叫ぶ臨也と笑う新羅。臨也は本気で泣きそうになっているが、新羅は至って楽しそうで。 「これじゃ帰れないじゃんか…」 「それは困る」 「え、なんでそこだけ真顔になるわけ?」 「だってここは僕とセルティの愛の巣なんだから!!」 「知るか!!」 「うーん…じゃあちょっと待ってて」 懐から携帯を取り出し、新羅は誰かに電話をかけた。 「ああもしもし、僕だけど…え、詐欺?嫌だなあ、そんなわけないじゃないか…うん、あのさ、今から来れるかい?…いいからいいから、今すぐだからね、待ってるよ」 一通り相手と話すと電話を切る新羅。どうやら誰かをこちらに呼んだようで。 「え、今の誰?」 「臨機応変な私の行動を褒めて欲しいね、来てからのお楽しみ♪」 「はあ?ていうかオレがこんな状態なのに人呼ぶとか鬼かよ」 「変態闇医者だよ」 「自分で言うな」 誰を呼んだのかと若干気になりながら、臨也は溜め息を吐いて肩を落とす。 「すぐ来ると思うよ」 「だから誰だよ…」 「君も知ってる奴だから…」 ピンポーン 「ほら来た」 「…早くない?」 「僕の言った通りだろ、ちょっと待ってねー」 そう言って玄関に向かう新羅。取り残された臨也は、再びソファに腰をおろした。聞耳をたてると、会話が聞こえてくる。 「いらっしゃい」 「何か用かよ?」 「まあね、とりあえず上がってよ」 ぴくり。臨也の動きが静止した。まさかまさかと思いつつ、その場で待つこと15秒。嫌な予感。 ガチャリ 扉が開いて、入ってきたのは新羅ともう一人。やはり嫌な予感は的中した。 「…は」 「うわ…」 「お待たせ、臨也」 新羅が連れてきたのは紛れもない、臨也の天敵である自動喧嘩人形平和島静雄。 「新羅殺す」 「物騒だなあ、あははは」 「どういう事だ、新羅…」 臨也としては、こんな状態の自分を静雄に見られた事を羞恥に思い、新羅としては笑い事。そして静雄としては新羅の家になぜ臨也がいるのかと疑問に思った。 「実は静雄に頼み事っていうのは、臨也を家に泊めてあげて欲しいって事なんだけどね」 「「はあ!?」」 新羅の言葉に揃って叫ぶ臨也と静雄。その勢いで臨也はソファから立ち上がった。 「ちょっと新羅、なんでオレがシズちゃんの家に泊まらなきゃなんないのさ!!」 「だって君帰れないんだろ?仕方ないじゃないか」 「だからってなんで俺ん家なんだよ!!」 「静雄以外にあてがないからさ、旧友として、君になら安心して臨也を任せられる」 「お前はオレの保護者か!!」 「いやいや、だからなんで俺?」 「変な奴らが臨也を狙っても、静雄がいれば安心でしょ」 「オレそんな弱くないけど」 「今の君は女の子なんだから、力の差ってものがあるからね」 「…………え」 「え?」 「どうしたの、シズちゃん」 急に動きを止める静雄を、新羅と臨也は訝しげに見る。だらだらと汗を流す静雄は、明らかに動揺していた。 「…新羅」 「なんだい?」 「誰が、女…だって?」 「え、だから臨也が…って静雄まさか気付いてなかった?」 「は、いや、なんか変だとは思ってなくもなかったっつうか…」 「シズちゃん鈍いにも程があるよ…」 「るせぇ…つかいきなり男が女になったとか言われても信じらんねぇだろ」 「まあ確かにね」 ということで、話は振りだしへと戻る。 「だから、このままじゃ臨也は帰れないからさ、静雄泊めてあげてよ」 「だからなんで俺が…」 「そうだよ新羅、別にシズちゃんじゃなくてもいいじゃない」 「そうなんだけどね、静雄がいれば限りなく安全に近いでしょ、だってほら考えてみなよ、池袋最強の男だよ?少なくともこの辺りで静雄に勝てる奴なんてそうそういないんだから」 「まあそれもそうだけどさ、なんでよりにもよってオレとシズちゃんを一緒にするわけ、という事をオレは言いたいんだよ、うん」 「だって君らをセットにしておけば暫くは池袋で合縁奇縁な二人の喧嘩騒動なんて起きないだろ?」 これが本心か。静雄と臨也は顔を見合わせ、やっとの事で同時に諦めの溜め息を吐いた。 「うぜぇけど…しゃあねぇ、後で新羅殺す」 「もうなんかいいや、新羅死ねっ☆」 「二人とも、物騒な事言わないでよ」 という事で一件落着。長い長い口論が、幕を閉じたのであった。 閉じたのであった、が。 ガチャリ 「「!!?」」 「あ、セルティが帰ってきたみたいだ♪」 「え、この状況で?」 「マジかよ…」 軽くスキップしながら玄関へと向かう新羅と、その後ろ姿を目で追う臨也と静雄。二人の背中に、嫌な汗が流れた。 「お帰りセルティ♪」 『ただいま新羅…あれ、お客さんか?』 「まあね、ちょっと不慮の事故が起こったんだけど大したことないよ」 『事故?!怪我したのか?!』 「ははっ、嬉しいけど生憎僕でもないし怪我でもないよ」 『?』 通称首無しライダーであるセルティの腕を引いて居間に戻る新羅。入った途端、奇妙な空気が流れた。 『え』 「あ」 「…よ、よぉ」 「みんな、臨機応変だよ♪」 脳天気に笑う新羅以外の三人は、顔を見合わせて言葉を失う。そして一から帰宅した彼女に説明する為に、会話は降り出しに戻るのであった。 |