嫁には出しません
「臨也」


俺が名を呼ぶと、臨也はくるりと振り向いた。


「なにードタチン?」


対して変わった様子も見せず、平然とした表情が逆に不思議に思う。


「お前、いつから平和島になったんだ?」


胸元に『平和島』と刺繍されたジャージ。その平和島は、お前が大嫌いな天敵の持ち物のはず。なのになぜ、そんなに平然と、まるで当たり前のように着ているんだ。理解出来ない。


「へ?ああこれね、ジャージ忘れたの」
「いや忘れたとかそういう問題じゃなくてだな…なんでよりによってあいつの着てんだ?」
「?だって借りに行ったもん」
「そうじゃねえ…」


つかの間の混乱状態。俺がおかしいのか?いや、お互いに殺し合っている奴らが物を貸し借りする方が確実におかしい。俺の考えは間違っていないはず。


「本当に静雄に借りたのか?」
「そうだよ?」
「なんて言って借りたんだ」
「「ジャージ忘れたから貸して」って言ったら貸してくれた」
「…有り得ん」


信じがたい事実。しかし臨也が嘘を言っているようには見えない。


「ドタチン?」
「…お前ら、仲良かったんだな」
「そだよ、だって付き合ってるもん」


そうか、二人は付き合ってたんだな。だから臨也は静雄のジャージを着ていたのか。


「…え」
「え、て…ドタチン知らなかったの?」
「全然知らねえ」
「新羅から聞いてると思ってたんだけど…」


あいつも知ってんのか。ということは、何も知らないのは俺だけ…なんだか娘の彼氏の存在を初めて知ったような気分だ。


「…認めん」
「ドタチン?」
「俺は断じて認めんぞ!!」


なぜよりにもよって静雄なんだ!?天敵じゃなかったのか!?というかお前ら殺し合いしてんじゃねえのか!?


「なんだかドタチン、私のお父さんみたい…」
「お前は静雄が好きなのか?」
「え、うん…死ねばいいって思ってるけど好きだよ」


なんだそれ。あれか、殺したいほど好きって事なのか?


「静雄の方はどうなんだ」
「シズちゃんも、ムカつくけど好きって言ってくれた」


意味がわからん。なぜお互い嫌い同士なのに付き合うんだ。というか本当に好きなのか!?


「っドタチンのバカ!!」
「は?」
「いい加減にしないと…私シズちゃんと駆け落ちするからね!!」
「なっ…待て、臨也!!」
「知らない!!」


急に怒り出して、今度は駆け落ちだと?走り出して…行く先は、静雄のとこか?認めたくない。


「…嫁には出さねぇぞ」


わなわなと拳が震えた。けれどきっと、いや絶対、静雄には到底敵うはずもない。俺は我慢しか出来ないのだ。
いつか覚えてろ、と俺は心の中で静雄に毒づいた。



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