気が狂う
折原臨也は、何を考えているのか分からない。


「いーざーやー!!」
「げっ、シズちゃん…」


何度も池袋に来るなと言っているのに、毎日毎日池袋に来ては俺の前に現れやがる。


「手前、池袋に来るなっつったよなあ?」


不愉快だ。ああ、胸糞悪ぃ。


「なんで毎日毎日俺の前に現れやがんだよ…!!」
「シズちゃんが私を見つけるからでしょ…たまにはほっとくとかしてみたらぁ?」
「うぜぇ、殺す殺す殺す!!」


ほっとけっつわれても、こいつが何しでかすか分からねえから。だからほっとくわけにはいかねえ。だから俺は全力で、こいつを殺す。


「シズちゃんの暴力ってさ、理屈も冗談も通じないから苦手なんだよね」
「るせえ、黙って俺に殺されやがれ」
「酷いなあ…」


自販機を両手で持ち上げて、いざ投げようとしたその隙に。この女は俺の懐に潜り込んできやがった。しかも、


「…女の子には優しく…ね、シズちゃん?」
「な…っ!!?」


自分の唇に指を押し当てて、目一杯俺に顔を近付けて。
…しかも若干背伸びしてやがる。


「…ありえねぇ」
「え?」


一瞬でも、こいつが可愛いとか思った俺はきっとオカシイ。なんだこれ、意味わかんねぇ。


「シズちゃん?」
「…っ」


戦意喪失とはこの事か。調子が狂った…。


「…チッ、帰る」


うぜえ、うぜえ、うぜえうぜえうぜえうぜえ!!早くこいつの目の前から立ち去らねえと、マジでおかしくなりそうだ。



「シズちゃん」



早く、早く早く早く早く…



「…またね」



ああ、クソ…



「…マジかよ」



…ありえねぇ。




唇に押し当てられた柔らかい感触が、嘘だと信じたい。にこりと笑ったあの笑顔。あいつが何を考え、何を目的としているのか余計に分からなくなった。


「…意味わかんねぇ」


とうとう頭がおかしくなったらしい。ああクソ、胸糞悪ぃ。考えれば考えるほど余計におかしくなる。だから俺は、考える事をやめた。


きっと彼女は、また池袋に現れるだろう。
その時まで、俺は正常でいられる自信がない。
だから、


「(…俺が新宿に行けばいいのか)」


そんな事を考えた。



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