だから意味があるんだよ
「シズちゃんメリークリスマスーっくし」
「来て早々風邪菌ばらまくなやクソノミ蟲」


午後六時も過ぎた頃、静雄が玄関のドアを開けると鼻水を垂らした臨也がいた。手にはスーパーの袋。ネギが飛び出している。


「…つか何しに来たんだよ」
「鍋」
「…」
「まあまあ立ち話もなんだし、とりあえず中入ろうよ」
「ここは俺ん家だ…」


ブツブツと呟きながらも臨也を部屋に入れ、先程自分が座っていたこじんまりとしたコタツの中に足を入れて座る。向かい側には臨也が座るが、静雄にコートを脱げと指摘され渋々それを脱ぐ。おまけにハンガーに掛けろとまで言われるものだから、臨也の眉間にはますます皺がよった。


「鬼畜」
「何が」
「寒いんだってシズちゃんの部屋」
「うるせぇな、んな事言うなら帰れや」
「てか鍋どこ」
「台所」
「シズちゃん取ってきて〜」
「自分で取れや」
「だって場所わかんないし」
「…ちっ」


なんだかんだ言いながらもコタツから出る静雄と笑顔の臨也。鍋を持って戻って来た静雄はすかさずコタツに入りこむ。


「シズちゃん」
「あ?」
「ガスは」
「……………」
「いってらっしゃい☆」
「うぜぇぇぇぇぇ」


再びコタツから出る静雄をニヤニヤしながら見送る臨也。その間にスーパーの袋から中身を取り出そうとするが…


「シズちゃーん」
「おらガス。今度はなんだよ」
「水入れてきて、あとダシ」
「……………」


ここまでくるともう怒る気にもなれないようで、静雄は無言で鍋を持って台所に向かった。



ようやく食べられる程までに煮えた鍋。


「お腹すいたー」
「もういいだろ」
「もう少し」


鍋を眺めながら、二人は白い息を吐く。


「うわ家の中で白い息とかどんだけ寒いのいやむしろ暖房器具がコタツしかないとかせめてストーブとか置こうよ」
「うるせー。てか何で今日来たんだよ」
「だってクリスマスじゃん」
「だからって「ぶえっくし!!」


盛大な臨也のくしゃみで話は一旦途切れる。鼻水を垂らした臨也の顔を見て、静雄は声を出して笑った。というか、吹いた。


「ブフッ」
「え、何その笑い引くわー」
「んだよ鼻水垂らしてる野郎が。つか色気無ぇな」
「オレに色気を求めないで下さいー」
「早くかめよ汚ぇ」
「うーぃ」


差し出された箱のティッシュで鼻をかみ、臨也はふと思い至ったかのように静雄を上目で見つめる。


「…んだよ」
「…いやさっきさ、何で来たんだって言ったよね」
「ああ…言ったな」


不意に臨也が真剣な表情をするものだから、静雄はそれに見入ってしまう。


「オレがシズちゃん家に来たのはさ、今日がクリスマスってのもあるんだけどさ…まあ別に女の子と過ごしてもよかったんだけど」
「厭味か」
「それもあるけど」
「………」
「でもこういう特別な日ってさ、特別な人と過ごすからこそ意味があるっていうわけでさ、だからさ…わかるかな、シズちゃんに」


クスリと微笑する臨也は話の内容とは真逆になんとも間抜けな姿で。鼻水を垂らしながらまた言葉を続けた。


「オレにとってはシズちゃんが特別だからさ、」
「…」
「だから今日は、君と過ごす事に意味があるんだよ。別に鍋じゃなくてもよかった。ただ君と過ごせたらね。まあ寒いから喧嘩で過ごす事にならなくてよかったけど」


心底可笑しそうに笑う臨也を見つめながら、静雄は馬鹿か、と呟く。


「んな鼻水垂らしながら来やがって」
「鼻水は不本意だよ」
「臨也」
「うん?」
「…メリークリスマス」
「…ふはは、メリークリスマス、シズちゃん」


お互いにクスリと笑い合い、とりあえず空腹を満たす事から始めようか、と煮えきった鍋に手を伸ばす。もう一度メリークリスマスと呟いて、また白い息を吐いた。



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