愛を知る 「好きなんだ、付き合ってよ」 一方的な、オレからの告白。 シズちゃんは心底驚いたように目を見開いて、ふざけんな、と吐き捨てた。 「手前…今度は何が目的だ」 「目的だなんて、心外だよ。言ったでしょ、オレは君が好きなんだ」 嫌いで嫌いで堪らなかった化物を好きになったのは事実。 シズちゃんがオレを嫌いだという事は知ってるさ。 だからと言って、オレを好きになってくれだなんて事は言わない。 ただ上辺だけの関係が欲しいんだ。 愛なんていらない。 オレが人間に愛されない事くらいわかっているから。 化物も含めて、ね。 「ただ付き合ってくれたらそれでいいんだよ、別に何をしようとは思わないからね。君はいつも通り、オレを嫌いでいてくれて構わないよ」 シズちゃんは何も言わなかったけれど、オレは無言を承知受け取ってその場をあとにした。 *** 上辺だけ、シズちゃんと付き合い始めて早一ヶ月。 彼は相も変わらずオレを追い掛け続けていた。 「臨也ァァァァァァ!!!!」 端から見ても、誰もオレ達が付き合っているだなんて思いもしない。 況してや男同士、それは皆無に等しい事だろう。 「はは、相変わらず単細胞なんだから」 「うぜぇえええ!!!!」 自販機くらいいつもなら簡単に避けられる。 けれど今日は辛うじて避けたものの、不意の腹部の激痛にそのままバランスを崩して地面に倒れ込んだ。 「!!?」 「ちっ、傷が…」 衣服に染みをつくるそれは自分の血で。 どうやら昨夜の仕事での傷が開いたらしかった。 「手前…それ、」 「え?ああ…昨日ちょっとね、大した事ないよ」 「…」 眉を潜めた複雑そうな表情は、何を考えているのか全く想像がつかない。 それどころか、 「…おい」 「え?…っ!!?」 オレの身体を抱き上げて、そのままどこかへ向かい始めた。 「ちょっと、どういう風の吹き回し?」 「…」 「ねぇってば」 「…」 話しかけても問答無用で無視をするシズちゃんは、やはりどこかへ向かっている。 様子の違う彼に、オレは構わず話しかけ続けた。 「あのさ、何やってるかわかってるの?」 「…」 「男を…しかもオレを抱き上げてさあ、一体どこ行くつもりなのさ」 「…」 「あー周りの目線が痛いんだけど」 「…」 「ねぇ」 「…」 「シズちゃ「手前はよ」 やっとの事で開いた口から出た言葉は、オレの言葉を遮って話し始める。 まあ別に構わないけどさ。 「オレがどうかした?」 「…手前は、俺が好きなんだろ」 少し躊躇いがちに紡がれた言葉は、予想外のものだった。 「…それが?」 「なのに手前は…一方的に自分の中で全部決めちまって、俺の考えなんかお構い無しに…自分ばっかり傷つきやがって」 「待って、この腹の傷はオレの不注意だよ?シズちゃんは関係無いでしょ」 言っている意味がわからない。 シズちゃんは、何が言いたいのだろう。 「…関係無い事無ぇだろ」 「え?」 少し、シズちゃんの腕に力が込もった。 「俺ら、付き合ってんだからよ」 「…え?」 「手前は、わかってないようだけどな…」 不意の言葉に、息が詰まった。 「手前が思ってる以上に俺は」 どうして…どうしてそんなに大嫌いなはずのオレを、 「手前を…臨也を、愛してるんだぜ?」 そんな、愛おしそうな目で見つめるのか。 「だから…愛がいらねぇとか、言うな」 好きになってなんて言わなかったのに。 愛してなんて言わなかったのに。 「手前は愛されてるから…安心しろ」 なんでかな、涙が出てきて止まらないよ。 「…シズ、ちゃん」 ねぇシズちゃん、オレ知らなかったんだ。 「大好き」 (愛してる) 愛されるって、こんなに幸せなんだね。 |