後悔先に立たずして
『平和島静雄を殺す気で』


そう命令したのは今から約半日前だった。
適当な奴にそれなりの前金を払って、人目につかない適度な場所を指定して。
遊び半分、これは喧嘩の延長戦だった。
追い掛けられる事も、殴られる事も想定済み。
きっとまた明日も、オレ達の追い掛けっこはやってくる。


「(確かこの辺…)」


成果を一目見ようと、指定した場所を訪れる。
日もとうに暮れた薄暗い路地は、独特の雰囲気を醸し出していて気味が悪い。


ジャリ


物音がした方へ近づくと、やはりそこには彼がいた。


「…はっ、いい様だねぇ、シズちゃん」


見下げて話しかけても反応は窺えない。
眠っているのかと思い、屈んでその表情を窺う。


「シズちゃん?」


次第に暗闇に慣れてきた目を凝らすと、驚愕した。


「…え?」


思った以上に流れ出る彼の血液は、何処から流れ出るものか。
妙な感覚に支配されて、暫しその場から動けずにいた。


ドクン


ドクン


どくん


心臓の脈動は、激しさを増しながら。
引き攣る頬は、呼吸を荒くする。
笑えない冗談など、今のオレには必要ないのに。


「…っ、マジかよ…っ」


震える身体は決して歓喜の意ではない。
視線を上げると、不意に目の前の男と合うはずのない視線が交わり、ゾッとした。


「シズちゃ…っ!!?」


間髪を容れる隙もないままに、伸ばされた腕。
殴られる、と思ったのも束の間、その掌はオレの頬をとらえた。


「…?」


べっとりと付着した血液は、未だに乾いておらずオレの頬を汚す。
けれどオレには、そんな事にいちいち気をとられる余裕など皆無であった。
暫し交わる視線。
ふと、唇が何かを伝えるように動いた。


「え?」


確認する間もなくにこりと微笑したかと思うと、ずるり、とその腕は地面に滑り落ちていく。
ゴトリ、と落下したかと思うと、その身体から正気は失われた。









後悔先に立たずして










『あいしてる』だなんて。


馬鹿だなぁ、遅いよ。



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