だから俺は、生きている
見えない何かを探す為に。


手を伸ばすけれど掴む物は空気ばかりで。


自分はひたすら何かを求めてるんだという事はわかってる。


欠けた何かを見つけるまでは、多分俺は俺ではいられない。


笑えない、冗談。


くだらない、真実。


腐りきった、世の中。


馬鹿馬鹿しい、現実。


考えたって見つかるわけはない。


欠けた何かは、始めから存在しないのだから。


喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも。


感じる事は出来るけれど、それを表現する事が出来ない。


ただ、うまれた時からこうだった。


喜怒哀楽が俺にはわからない。


そんな俺は生きる意味があるのか。


誰かが必要としているのか。


何の為に俺は存在しているのか。


何度も考えた。


生きる理由も無い。


存在する理由も無い。


じゃあ俺は、なぜうまれてきたのだろう。


考えて、考えて、考えた。


それでも答えは見つからない。


このまま考え続けるのか。

わからない。


わからなくなった。


けれどそんな時、俺は出会った。


そいつは俺の名を呼んで。


曇りの無い笑顔を向けてくれた。


俺が怪我をすれば泣いて。


自分が嬉しかった出来事を楽しそうに話す。



「ねぇねぇ、」



こんな俺を必要としてくれる。


こんな俺でも笑いかけてくれる。


そいつはいつしか俺の、かけがえのない存在になった。



「つがるっ!!」



誰からも愛されるそいつは俺とは違う。


そいつのうまれ持った美しい歌声は人々を魅了する。


誰よりも感情が豊かで、俺とは真逆の存在。


それでも、俺はこいつが羨ましいなんて思わない。


誰よりも喜べるこいつは、誰よりも怒る事が出来るから。


誰よりも泣くこいつは、誰よりも笑う事が出来るから。


こいつの一つ一つの行動が素直な気持ちで、純粋。


偽りなんて一つもない。


子供のように無垢だから。


真っ直ぐで、澄みきった心。


人を惹き付ける力が、こいつにはある。


それは全て、俺には無いもの。


だからこそ俺は、こいつを守ろうと思った。


いや、守らなければいけないんだろう。



「あのねっ、おれね、つがるがだいすきっ!!」



俺の存在を必要としてくれる唯一の存在。


こいつの為なら、俺は死んだって構わない。


この笑顔が崩れてしまわないように。


失われてしまわないように。


こいつには、汚れきった世界は見せたくないから。



「…俺も好きだよ、サイケ」



今は傍にいる事しか出来ないけれど。


ずっとこのまま、子供のように笑っていて欲しいんだ。


俺が笑えない分を、この笑顔が満たしてくれる。


俺には無いものを、こいつは持っている。


俺には出来ない事を、こいつはやれる。


だからこいつは、俺の生きる支え。


喜べなくても、怒れなくても、哀しめなくても、笑えなくても。


こいつがいれば、俺は大丈夫。


それだけで俺は、今日も生きていく事が出来るから。


そしてこれが、やっと見つけた答え。





俺は今、こいつの為に存在し、生きている。




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