君となら、どこへだって
※死なないけれど病気ネタ





白い天井。
真っ白なベッドに真っ白なシーツ。
目につくのは無数の管と、一定のリズムが刻まれる機械音。
いずれかは止まってしまうのであろうその音は、無音の部屋によく響いた。
閑散とした部屋。
ゆっくりと瞼を開いても、その現状が変わる事はない。
それどころか事態は悪化する一方で。
刻一刻と彼の命を蝕む病魔は進行しているのだろう。


「死ぬのか」


沈黙を破る低い声。
四六時中暴言を吐き続けていたその声音に、今は怒声も殺意も込められてはいない。
無気力な、どこか諦めたような。
そんな声音は、彼と出会ってから一度たりとも聞いた事がない。


「…シズちゃん、がね」


血の気の満ちたあの迫力はどこへやら。
もしかしたら無気力なのは自分なのかもしれない。
片時も肌身離さず持ち合わせていたナイフも、いつしか仕事場のデスクに置きっぱなしになっていた。
護身の意味が無くなったのだ。
仕事上、それもどうかと思うのだが。
しかし目の前のこの男よりも危険な存在など、今の今まで出会った事などない(四木さんは別として)。
四六時中続けてきた追い掛けっこで自然に身についた、自分なりの護身。
元々パルクールは取得していたのだが、彼のお陰で更に磨きがかった。


「…らしいな」


彼が身動きすると、ギシリと軋むベッドのスプリング。
その音でさえ、耳を塞ぎたくなるような衝動に駆られる。


「外側は頑丈なくせにさ、内側は人並みに病気にかかるなんてさ」
「…俺だって人間だ、病気にくらいなる」
「よりにもよって不治の病にね」


正直、彼を殺す為ならなんだってよかった。
ナイフで刺して死なないなら拳銃で。
拳銃でも死なないなら別の方法を。
何だってした。
何だってよかった。
けど。
こんなカタチで、死んで欲しくなんてなかったな。
オレの手で苦しませたかったのに。
病気なんかに、奪われたくなかった。
彼を殺すのはオレだ。
どうして病気なんかに、オレのモノを奪われなきゃならないの?


「…シズちゃん」


つまらないよ、君のいない世界なんて。
面白くもなんともない。
オレは人間が好きだけど、君の事も嫌いではなかったから。


「…ねぇ、シズちゃん」


だからさ、オレも連れてってよ。
君がこれから行く世界へ。
オレも連れてって。
そしてまた、そこで喧嘩しよう?


「シズちゃんが逝く世界ってさ、一体何があるんだろうね?オレもいきたいよ」


君が行くのは天国?
それとも地獄かな?
どちらにせよ、オレは君が行くならどちらでも構わない。


「…手前なんざ連れてったら、ろくな世界にならねぇだろーがよ」


君がいて、オレがいる。


「いいんじゃない?どんな世界だって」


だからオレは、どんな世界だって構わない。
君がいればそれでいいから。


「…手前は、それでいいのか?」
「後悔なんてしないよ、シズちゃんこそ、オレとは逝きたくないんじゃない?」


ろくでもない世界に行こうじゃないか。
二人でさ。
オレは君とならどこへだって行けるよ。


「うぜぇ手前を遺して逝くくらいなら、俺が連れてく」



今度はオレが追い掛けるから。



「…断られたって、オレはシズちゃんと逝くよ」



だからね、シズちゃん、



「手前に生きろなんざ言いたくねぇ」
「オレだって、君の分まで生きるだなんて言いたくないさ」



オレを置いて逝かないで。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -