胸の上の、黒い頭
目を開くと、冷たいコンクリートの感触。目の前には晴れた青い空と、涼しい風と、黒い頭。
…頭?
視線を下げると黒い頭。胸の上に、なんか乗ってた。


「…手前、何やってんだ」
「んん…」


触れると唸り声。つつくと身じろぎ。揺らしても身動きするだけで起きる様子が全くない。


「おい、ノミ蟲」
「んー…」
「起きろって」
「んー…」
「臨也」
「んー…んん?」


もぞもぞ身動きしてから上がる頭。こいつは俺の嫌いな、大嫌いな、ムカつく奴。今起きたばかりでか、まだ寝ぼけているらしい。


「手前、何してんだよ」
「んー…しずちゃん…?」
「ああ゙?」
「…ねむい」
「…」


駄目だ会話にならねぇ。というか会話なんざする気ねぇけど。完全に起きてたら殴ってやるつもりだったのに。
しかし俺も起きたばかり、若干今も身体がだるい。仕様がないから殴る事は止めてやろう。


「…なんだってんだよ、ったく」


一向に起きる気配の全く無いこいつ。別に寝るのは構わねぇけど、なんでよりによって俺の上で寝てんだ?ここは屋上なんだから、寝る所くらいいくらでもあるってのに。意味分かんねぇ。


「臨也」
「…なに、シズちゃん」
「起きてんなら言えよ…」


あー起きたから殴ってやろうか、なんて思ってたら。こいつは弄ぶかのように俺の胸元で指を動かしやがって。ワイシャツに絡めるその指の感触が若干擽ったい。


「…何してんだ」
「別にー…」
「…」


なんだかとてもうっとうしい。というかもどかしい。てか何だこいつ、誰だ。見た事ねぇし、こんな奴俺知らねぇぞ。
……別に可愛いとか思ってねぇし、つか思わねぇぞ。断じて無い、うん。
それにしても、一向に動き続ける指をどうにかしなくては。しかしそれもなんだかんだ言って面倒臭くなってきた。
というわけで。


「うわっ!!?」


胸元に乗っかる身体を両腕で抱えてから、俺はそのまま横に倒れる。どさり、と音がして、身体がコンクリートに冷やされた。


「シズちゃん?」
「もっかい寝るから付き合え」


そう言って俺は再び目を瞑る。逃げないように、こいつの身体は抱えたままで。


「…仕様がないなぁ」


そしたら黒い頭を揺らしながら、こいつも笑った。
数分後に鳴った授業終了を告げるチャイムなんざ知ったこっちゃねぇ。俺はまた、目を瞑った。



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