帝←幻
恋が叶う者の気持ちなど到底計り知れない。紙にペンを走らせ溜め息を吐く。バタバタと近付いてくる足音に襖を一瞥するとタイミング良く帝統が顔を覗かせ自分の名を呼ぶ。

「幻太郎休憩しねぇ?」
「ちょうど今キリがついたところですよ」

まあ行き詰まった、とも言いますけど。

「そっか、いやこないだ落とし物拾ってよー」

そう言いながら帝統はポケットからお守りのような物を取り出す。合格祈願、交通安全、種類は数多もあるがこれは恋愛成就のそれだろう。

「ちょっくら交番に届けてくっから留守番しててくれよ」
「留守番も何も某の家ですけど」
「あ、だよなあはは」

バタバタと踵を返し廊下を駆けて行く。見送りはいるか、などと思う前に玄関を出たようでまた溜め息が出る。

「恋愛成就、恋が叶う者の気持ちなどオレには一生わからないでしょうね」

溜め息は幸せが逃げると知りながら、出てくるものは仕方がない。まだ重症前の恋は完全に患ってしまえばどうなるかなんてのも知り得ない。まだ想うだけなら、と。溜め息と共にこの心さえも吐き出してしまえれば良いのに、なんて思いながらまた息を吐いた。



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