安→清
「最初に言っておくけど、オレに惚れたりしないでね」

それは本丸に来て初めて清光に言われた言葉。そんなことはない、そもそも惚れるって事が理解出来なくてあの時は聞き流したけれど。憂いを帯びた清光の顔が、声音がずっと忘れられなくて。惚れる以前に刀である自分がそんな想いを抱くんだろうかと、じゃあそんな事を言う清光はどうなんだって疑問にも思って。モヤモヤしたまま、時が過ぎて。自分はこの本丸にとって二振り目の『大和守安定』なんだと知ったのは、僕が清光に惚れたのとほぼ同時期の事だった。

「清光」
「んー、なに」
「……」
「安定?」

怪訝に思って、顔を覗き込まれる。嗚呼これが、好きだとか云う感情か。顔が見れない、というよりあわせ辛い。目を合わせればきっとバレてしまうから。…清光が想っているのは、僕じゃないと知っているから。

「なんでそんな元気ないんだよ」
「…そう見える?」
「そう見えるから聞いてんでしょ」

笑う清光が眩しくて。嫌だなあ、ここにいたくない。でも、頬を撫でる手が振りほどけない。刀なのにこんなにも息苦しくなるなんて。清光が惚れるなって言ったのに、気をつけてたはずなんだけどなあ。

「…ねえ」
「ん?」
「僕はいなくなったりしないよ」

目を見開いた顔に、嗚呼やっぱり僕じゃ駄目なんだと気付いて。うまく笑えないまま、清光を抱き締めた。



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