監督生
『元の世界に帰りたい』という思いは月日が流れれば流れるほど楽しい時間に書き消されていく。いつの間にか『元の世界に帰らなければならない』と考えるようになってしまえばもう手遅れだった。自分は元の世界に帰っても今まで通りの生活が送れるんだろうか、待ってくれている人はいるんだろうか。そればかりを考えて、もしかしたら帰らない方が幸せなんじゃないかと思う方が多くなったのも事実だ。

「(そんなはずないじゃないか)」

魔法が使えない、この世界では致命的な欠点。そんな自分がこの先魔法が使えないまま生きていくなんて出来るはずがない。だから、やっぱり選択肢はひとつしかないわけで。けどやっぱりどうしようもなくこの世界を、仲間を。少なからず愛してしまった自分がいる事に後悔したってしきれなかった。離れたくなくて、どうしようもなくて。自分じゃどうしようも出来ない事がこんなにも悔しくて。ならせめて、せめて自分がここに居たという『証』を遺せたら。忘れ形見のように、自分が確かに愛した『証』を遺せたら。それだけで報われるような気がして。

「(……どうか、)」

この世界に確かに居た自分を、この世界だけでも覚えていて。それだけが今の自分に出来る、精一杯の願いだった。



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