バザゼタ
もしもこの先一生逃げ続けるとして、隣にいるのがこの男でしかないのなら。…なんて一瞬考えたのは、先日辿り着いた街が幸せで溢れていたからだ。

「世間はジューンブライド真っ盛りね」
「六月の花嫁か…何の意味がある?」
「幸せになれるって言われてんのよ、アンタ相変わらずロマンがないんだから」

自分も少なからず憧れる、純白のドレスなど到底着る予定など無いが。そもそも相手がいないんだと、チラリと隣を一瞥するがまあ…と即座に思考を書き消した。

「なんだ?」
「べっつにー」
「…アレを着たいのか?」

アレ、とは。前方に見える若い男女が幸せそうに挙式を挙げていた。大勢の人々に祝福され、この先の未来に希望を描く姿はキラキラと輝いて見えて。もし自分があの場所で生涯を誓った相手とあんな風に輝けたら、なんて考えるのも馬鹿らしい。

「憧れはあるけどね、大体そんな事出来る立場じゃないし」
「関係ないだろう、なら俺が着せてやっても構わんぞ」
「はあ?何言ってんの」

本当に、何を言い出すのかこの男は。こんな事を冗談で言えるようなやつだったのかと、思わず顔を凝視してしまう。「冗談じゃないぞ」と不敵な笑みを浮かべてしまったらもう駄目だと思った。

「…ちょっと、気まずくなるのも嫌だから、今回は聞かなかった事にしといてあげるわ…」
「ならいつか聞く気があるのか?」
「っうっさいバカ!」

頬が熱い、顔を背けた。もしもこの先本当に、隣にいるのがこの男でしかないのなら。…その気があるなら考えてあげなくもないかもしれない。今は、それしか言えなかった。



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