補足
最初の『違和感』はやがて『確信』に変わる。触られるだけなら多分もう何も感じないと思う。指先から腕の方、辛うじてわかるのは肩だろうか。両手はどれだけ傷付いてももう痛みすら無い。医者に見せるべきなんだろうな、とかれこれ数ヶ月経った結果だった。痛みに鈍い分視覚が鋭くなる。だから、かっちゃんが触れる箇所への動きをひとつひとつ確認しながら行為を行う必要があった。お願い、気付かないで。そればかりに集中してしまって危うく嫌がられていると思われたのは言うまでもない。ボク達は、ボクとかっちゃんは所謂恋人同士だ。卒業する直前から、それから一緒に棲み始めて。毎日が幸せで、毎日が心配で。生傷が絶えないのはヒーローだから仕方ない、でもその傷ひとつひとつに互いが敏感になっているのも事実で。それを確かめ合う為に触れ合った、大切だから、愛しいから。少しでも傍にいたくて、少しでも触れ合いたくて。いつ死ぬかわからない、いつ死んでもおかしくない。そんな状況なのにそんなボクの『違和感』なんて言えるわけがなくて。心配させたくなかったんだ、けどどうしても弱音を吐きたかった。ひとりで抱え込むのが悪い癖だった、でも誰かに知って欲しかった。『かっちゃんには言わないで』、そんな理由をつけて。いつかバレるのはわかってるけど、少しの期間でも心配させたくなかったんだ。

「糞デク、テメェはいつもそうだ」

鬼の形相なんて今更怖くない。感情に任せて怒鳴る君は学生の時に置いてきてしまったから。今はもう、ボクの為に、ボクのせいで君を怒らせてしまっているんだ。ボクを想って怒る君は呆れたような、諦めたような表情で悲しげにボクを視界に映す。ごめんねかっちゃん、なんて言ってしまえば君はもっと怒るんだろうね。

「心配、させたくなかったんだ」
「切島には言う癖になァ?」
「君に心配させたくなかったんだよ」
「言わねェ方がタチ悪ィんだよ、真っ先に俺に言うもんだろーが」

付き合ってんのに、そんな事もわからんのかテメェは。なんて言われて、悪いのはボクの方なのに。わかってる、のに。たかが『付き合ってる』だけじゃないかって思ってしまうのは、思ったより不安になってしまっているからだ。言えなんてそんな事、簡単に言わないでよ。痛覚がないってのは何も感じないって事なんだ。痛みが無い、何も感じない。そんな身体でヒーローを続けていけるんだろうかとか、思ってしまうのは当たり前じゃないか。きっとこのままじゃ死んだって気が付かない。そんなボクと君がこの先一緒にいるなんて、君の熱すら感じる事の出来ないボクとなんて。君が、たかがそんな人間に『付き合ってる』君に、言えるわけないよ。

「…かっちゃん、ボクは…」

自棄になる前に終わらせよう、この関係を。君ならいくらだって相手は見つかるんだ。ボクなんかよりずっと素敵な人が。だからかっちゃん、ボクと別れて。言えない癖に、言う気も無い癖に。涙だけがぼろぼろ出てくるんだ。終わらせよう、終わりたくない。君が好きなんだ、ずっと一緒にいたいよ。

「デク」

出来るなら、せめて死ぬまで。永遠を誓う、左手の薬指にはめられたそれに心底驚く。感じるはずのない重みが、熱が。かっちゃんの手のひらから感じるようで温かい。胸が締め付けられるような痛みだ、いつかこの痛みも感じなくなってしまうのかな。嫌だな、嫌だよ。ボクはこれからも、この先も死ぬまでずっと。君を想う痛みを感じていたいのに。



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