ヴェルスル
自己犠牲の上に成り立つ正義なんざ偽善だと思っていた、が。こいつに正義も偽善もあるわけがなく、仮だの何だの相変わらずそんな事ばかりほざくもんだから半分躍起になってんじゃねえかと頭を悩ませた。この俺が、だ。

「(久々に会ったと思やこれだしなァ…)」

自己犠牲も自己責任だが、絶え間なく傷付いた身体にいい気はしない。慣れたで済ませりゃそこまでだが、痛覚が鈍ったわけでもあるまいし。白に滲んだ赤に、顔色ひとつ変えないこいつはもはや魔物のそれと変わらないようにも思えた。

「スルスタン」

周りに誰もいないのを良い事に、首筋に噛み付く。傷塗れの肌に映える歯形にもじんわりと血が滲んだ。それに対しヤツは無反応だ。っつーより、放心していた。んだよ今更、別に驚く事でも無ェだろ。

「っ貴様、は!」
「んだよ」
「……チッ」

舌を打ちながら歯形を包帯で覆い隠す。まるで同等の『傷』みてぇにだ。それが何となく癇に触って、今度はその唇に噛み付いてやる。口内を犯す、舌から感じるぬるりとした感触と鉄の味。てめぇはどこもかしこも相変わらず血塗れだな、なんて思うのは今に始まった事じゃない。そんな事思うのにも疲れた、それから先の流れにも。

「ってェな…噛むなよ」
「先に噛み付いてきたのは貴様だろうが」
「へーへー」

口内に滲む血を地面に吐き出す。こんなやり取り会うたびにしてたんじゃキリが無ェ。…そうだ、キリが無ェんだよ。何年も何年も、会うたびキスして噛まれてそんで終わり。変化が無けりゃ進みもしねェ。俺はこいつと、スルスタンとどうなりたいんだ。自問自答して考えんのもうざってぇ。俺はただ…ただ。

「なあ、スルスタン」

いつ死ぬかもわかんねぇ世界でだ、こんなにも誰かに執着するなんざ後にも先にもてめぇだけなんだ。んな傷増やすくらいなら、せめて俺の為に血を流せ。そんでもって俺の為に生きろよ。愛してる、愛してた。こんな世界で俺が最期にそう言ってやるのはてめぇがいい、たったそんだけの事だ。



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