伝わればいい
恋の言葉は数知れず、運命なんて信じちゃいないけど普通なら有り得なかった出逢いだった。異世界からの訪問者、監督生を中心に確かに出逢ったそれは運命以外のなにものでもない。そう信じているのはオレだけかもしれない、想っているのもオレだけかもしれない。だから、そんな特別な出逢いだったからこそ。普通は抱かないような感情を持ってしまった事も事実なんだ。

「なあ監督生、そっちの世界ならではの告白の仕方ってある?」

だからこれは所謂自己満足で、気休めで。届かなくてもいい、伝わらなくてもいい。ただオレだけが知ってればいいんだ。好きとか愛してるなんてのが全世界共通なら、異世界ならではの言葉で。バカなあいつに伝わる、最上級の愛情表現で。

「…やっぱり似た者同士だなあ」

そう言って監督生は笑う。誰と似てるかなんて知るよしもない、適当にはぐらかされた事に腹を立てる隙もなく監督生は言葉を紡いだ。それからもうひとつ、「エースはこっちかもしれないね」と付け加えて。

+++

今夜は満月だ、だからどうしたってわけでもなくて。やたらそわそわしてるのはオレの方かと思いきや、なぜかデュースのやつまで落ち着かない様子だった。

「(…似てるって、そーいう事?)」

まさかこいつまで誰かに告白を?とか考え始めてしまえば止まらない。いやその前にここ男子校だし、可能性あるならジャック…は無いか。いや絶対無い、オレがそう思いたいだけだけど!…自問自答したって状況は変わらない、こうなったら早い者勝ちだ。なかば自棄になってる気がするし競ってるわけでも無いのに。いやこいつの事めっちゃ好きじゃんオレ。もたもたしてたらどっか行っちゃうかもしんない。同室の他の二人が風呂から帰ってくる前に、

「っデュ「エース!!」

オレが言わなきゃ。そう思ってたのに。やたら大きい声にビビって、言いかけた名前はかき消されて。文句より先にデュースの顔が目に入ったらオレはもう聞くしかないじゃん。こいつが言いたい言葉を理解するけど、さ。お前はやっぱりオレの予想の遥か斜め上みたいな事ばっか、言葉より行動で示しちゃうんだからなあ。

「こ…今夜は月が綺麗だな!!」

月なんか見えやしないっての。タイミングとムードってもんがあるよな普通?…そう、普通はね。何も知らなかったら急に何?って感じなんだけど。お前やっぱり言葉の意味も理解してないだろ。なのに緊張して、顔真っ赤にして。お前は何を考えて、オレとどうなりたかったんだか。オレは、伝わらなくてもいいって思ってたのに。お前は、…お前が、そんな事言うなんて。ああ、だからオレは『こっち』なんだな。監督生の言葉を今理解して、恥ずかしくなるのはオレの方。

「…オレは、もう、死んでもいい」
「え?!し、死ぬなエース!!」
「はは、バカそうじゃないって」

オレだけが知ってればいい。オレだけが、この恋の行く末を知ってればいい。オレの手のなかで転がるお前は見ていて気分がいいよ、それからお前の気持ちもね。…でも、ドキドキしてるのがオレだけってのもなんだかな。『死ぬ』なんて単語をつかったお陰でデュースの顔がみるみる真っ青になっていくのも気の毒だ。これからもオレに翻弄されればいいよ。だってオレ達両想いなんだし?

「月が綺麗だな、デュース君?」

オレだってお前の照れた顔が見たいんだよね。好きなんて言うのは照れ臭い。ああそうだ、幸せすぎてオレ、もう死んでもいいわ、なーんてな。



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