恋い慕うは罪
背中に爪を立てる行為にも、痛みすら快楽に変わる身体に成ってしまった事にも。いつの間にか慣れた、慣れきってしまったそんな頃。ふと思い出すのは爛れきったこの関係が始まったきっかけ、簓の告白。まあ好きだとかんな事言われた訳じゃないが、当時そんな言葉とは到底似ても似つかぬ発言に耳を疑ったのは事実だ。

『簓テメェ、拙僧の事んな目で見てたんかよ』

なァ空却、抱かして。息を呑むより先に思考が追いつかない。頭ん中ぐるぐる回ってようやく出た言葉に簓は気まずそうに笑う。

『拙僧に欲情する程イカれちまったんかァ?生憎んな趣味無ェぞこの変態野郎、性欲処理ならほか当たれ』
『あ…あー!アカンアカンしもたわ!うん、せやな、せやんな?アハハ、やっぱ今のナシナシ冗談や!本気にせんで、忘れてーや…な?』

慌ただしい態度が余計にそれが真実だと告げているようでなんとも滑稽だ。このまま茶化してやろうかなんて思ったが冗談として扱うにしてはえらく簓の顔には動揺が浮かぶ。しまった、つい。溢した本音かブツブツと唱え頭を抱える辺りマジもんのやらかしらしい。溜め息を吐いて頭を掻く。相当重症だと思った。

『理由を言え理由を』
『はぇ?』
『だァから、拙僧抱きてェ理由』

理由を知ればその気になるなんてこた無ェが。聞く権利くらいあんだろ、なんて。これネタに脅す気も弱み握ったつもりもなくただ単に理由が知りたくなった。だって拙僧だぜ?そんじょそこらの女みてェに可愛げもなけりゃ慎ましさも無ェ、ただの坊主だ。劣情を抱くようなナリでもないましてや同じチームの仲間に、だ。今後気まずくなんのも面倒臭ェしさっさと吐かしてこの話は終わらせたい。

『…お、まえの…』
『あァ?』
『お前の…お前が、楽しそうにライムかましてる横顔が…綺麗やった…か、ら…?』

やから、イケるんちゃうかなって。なんで疑問形なんだとか、ひとこと余計だとか。いっそ好きだからとか言われた方が萎えたかもしんねーのに、自分が何言ってんのかわかってんのかコイツ。

『…マジで恥ずかしいヤツだなお前ェ』
『だ、っから忘れぇって!』
『ハッ、気ィ変わったわ、いいぜ?ヤッても』

嗚呼なんて間抜け面。何言うてんねんこいつ、みたいな顔に苛ついて思わず蹴りをいれてやる。痛がる顔を横目に気が変わった理由を、それからコイツの抱えてるもんが知りたくなったからとことづけた。



+++



「空却」

…物思いに耽る、なんて。強制的に戻され我に返る、見知った男に見下ろされてる。身体に滴り落ちる汗に、呑み込んだモノが身動ぎする度ナカで蠢く。

「何考えとん」

ベッドのスプリングが軋む音が妙に大きく感じる。沈んだ背中が、汗ばんだ身体が、繋がった箇所が。全てが熱を帯びる、全てが性感帯に変わる。息を吐くだけの行為が苦しい、楽になりたくて腕を伸ばした。首に回した腕、簓を抱き寄せるように耳元に唇を寄せる。

「…お前ェのことだよ」

多分絆された、きっともう元には戻れない。拙僧も面倒臭ェやつになったもんだと嘲笑う。寄せた唇を離せば普段見たことのない面で目を見開いた。なァ簓、テメェのせいだぞ、責任取れよ。惚れた腫れたは当座のうちってな、いつ覚めるかもわかんねぇもんなんざいらなかったってのに。馬鹿みてぇに惚れてんだ、手前ェは違うんだろうがな。

「いーから、さっさと動けっての」
「んー…?んふふ」
「何笑ってんだよ」
「別にぃ、なんもあらへんよ」

何もない、そう言いながら簓は嬉しそうに顔を緩める。情交の最中だってのに動く気配はみせねぇし挙げ句拙僧の首筋に顔を埋めて抱き締めてくる始末だ。何を、そんなに。肌と肌が触れ合う熱が心地良い。汗と汗が混じり合う、簓の匂いがする。嗚呼やっぱ、拙僧は馬鹿だ。こんな些細な事で胸が高鳴る、締め付けられる。好きだ、どうしようもなく。この男が、簓のことが。

「もうしばらく、こうさせてーや」
「…ハッ、好きにしろよ」

お前に好きなんざ言われた事無ェ、きっとこの先聞くことも無ェ。けど、だからこそ。この熱を知ってしまったから、拙僧はもう知らない自分には戻れない。離れたらそれっきりだ、離れればきっと忘れたくなる。

「(恋い慕えば罪だ、こんなもん)」

だから手遅れなんてのは百も承知。手前ェはもう、拙僧にとっちゃ忘れらんねぇ人なんだよ。



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