虹灰 「なんか、お前を好きにならなきゃ良かったって思った事無ぇな」 「は?」 急に何を言い出すんだと、つい持っていたボールを床に落としてしまう。体育館に響く、ボールの跳ねる音が妙に大きく聞こえる。虹村さんは至って真顔だ。コイツ、真顔で何恥ずい事言ってやがんだ。とうとう頭やられたか、しっかりしろよ。 「お前今失礼な事考えただろ」 「いーえそんな事アリマセン」 「嘘つけ」 虹村さんが笑う。部活をサボった罰だと、後片づけを任された俺に付き合うその人は一応オレの恋人だ。女好きのオレがなんで付き合ったんだっけかと考えるのすら面倒になるくらいには面倒な経緯だった気がする。無理矢理?強制?どっちが先に好きになったんだっけか、むしろオレはこの人の事そんな目で見てたっけか。面倒な事は忘れた、どうでもいい。けど。 「…オレだって」 「あん?」 「っ別に、なんもねーよ」 絆されたのは事実だ。オレは確かにこの人の事が嫌いだった、嫌いだったんだ。すぐ殴るし、怒鳴るし、まあ悪いのはオレだが反省はしちゃいない。なのにオレは、オレだってこの人で良かったとか思っちまってる。好きだ、有り得ねぇ。いつからだ、このオレが、なんでかこんなにこの人に振り回されてる。らしくねぇ、でもやっぱ好きなのは違いねぇ。 「やっぱお前可愛いなー」 「しっかり聞こえてんじゃねーかクソ!」 だから、なんつーか、オレは。…アンタに愛だとか寒い台詞だって今なら吐ける気がすんだ。愛してるよ、虹村さん。ああやっぱ、らしくねぇや。 |