不器用
家庭科の授業中。舐めて立たせて入れるのよ、と馬鹿が言うので何を、と聞くと糸だと返ってきた。


「針に糸入れるくらい出来んだろ…って、お前結構不器用なんだな」
「オレはむしろお前が妙に家庭的なところにドン引きしてるんだが」
「ぁあ?」


器用に縫い物をする姿にどこぞの主夫に見えなくもないぞ、とツッコミを入れたくなるがあえて言わない。そんな事に気を取られていたオレは、チクリと指先に走った痛みに顔を歪める。


「遼?」
「…やった」


ぷくり、と指先に膨らむ血の玉。肥大し過ぎた玉は形を崩して、ゆっくりと指を伝って流れていく。


「刺したのか」


手を止めこちらに向き直るそいつ。オレの指を見て貸せ、と言う。それに何を?と言う間もなく。血が流れ出る手首を掴まれて、その指先をぱくりとくわえられる。一瞬何が起こったのかわからなくてしばし硬直するが、すぐに我に返ると一気に身体の熱が上がった。


「っ……!?」


ちろり、と舌が傷口を舐めあげて痛みが走る。それから血を吸いとるかのように指を吸いながら、くわえた指から口を離した。


「…鉄の味がする」


言葉を失うオレとは逆に、真顔でそんな事を言うもんだから。


「っ馬鹿倉!!」


そう言って、平手打ちを食らわしてやった。そんな事したら何が起こるかなんて言うまでもなく。


「…痴話喧嘩はよそでやってくれ…」


ため息混じりな声が、後ろから聞こえた。



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