遺伝子
オレの身体のナカは、毎週毎週注ぎ込まれる他人のそれでいっぱいだ。溢れたそれは内股を伝って地面に落ちる。それは数えきれないほどの遺伝子の塊で、地面に落ちた遺伝子はヒトにはなれずにそのまま死んでしまう。かと言ってオレのナカで生きる事なんて出来ないし、そもそもオレの身体にはそんな機能は備わってはいないから。出来るならその全ての遺伝子を受け止めて、オレの手で育ててあげたいのだけれど。
そんな事を思いながら今日もまた、オレのナカにはそれが注ぎ込まれていくのだ。






「不毛な恋だよ」


翌日の昼休みの屋上で、オレは独り言のように呟いた。


「珍しく自分から望んだはずの恋なのに、叶わないなんて。今更恋煩い、ってのもなんだかなあ」


空はオレの気分と違って清々しいことこの上ない。フェンスに身を委ねながら淡々と言葉を紡ぐ。
気だるい身体は昨日の余韻。全部掻き出しても、未だに不快感は拭いきれない。これが恋煩いの彼なら別だけど。


「なら援交やめろよ」
「援交じゃないよ、商売だ」
「…同じ事だろ」


そう言って途端に不機嫌になる隣の男を一瞥し、腹部を押さえながらゆっくりと撫でる。


「オレが女の子だったら、こんな想いしなくて済んだんだろうね」
「…好きな奴って、男か」


彼はオレの腹部をじっと見つめながら呟く。それににこりと微笑して、再び腹部に目線を落とす。


「好きでもない彼らの精子でさ、腹を満たして気を紛らわせてるだけなんだ。これを彼のモノだと思い込んで。これで彼への想いを打ち消して。女の子だったら直ぐにでも告白してるし、最初からこんな事もしてないよ…あ、でもオレの場合女の子だったらやっぱり女の子を好きになるのかな」


ややこしいね、って上手く笑えないから感情がこもらない。上っ面だけの笑みで顔を上げ、真っ直ぐ風景を眺めた。


「…なら、そいつに頼めば「彼はそれを望んでない」


はっきりと、そう告げる。


「…彼はオレのこの行為事態嫌っているから。何より、オレだってそんなの嫌だ。身体だけの関係だなんて……虚しい、だけじゃないか」


だって、そうだろう?君が言ったんだから。


「轟…」


ほんとは君に今すぐ伝えたいよ。
数えきれないくらいの遺伝子を受け入れたこんな身体じゃ君に恋する資格なんてないけれど。そもそもオレの身体じゃヒトを生み出す事なんて出来やしない。だから尚更苦しくて。わかってるんだよ、君に恋する事も含めて今のオレの行為は許されない事だって。なら初めから女の子に生まれてこればよかったのにと、こればかりはしょうがなくて。
だけどきっと男でも女の子でも、どっちのオレでも君を好きになる。だってそうでしょう?


「…不毛な恋だよ、笑わせる」


オレは君以外の遺伝子なんていらないから。



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