我が儘 「Nのそばにいたい」 不意に出た言葉に急いで口を両手で押さえて、チラリと横を見る。 当の本人は吃驚したように目を見開いてこちらを見ていた。目が合う。 「…聞こえてた?」 「え、あ…うん」 「……我が儘かな」 頬が熱くなるのを感じながら目を泳がせて小さく呟く。 ああ駄目だ、彼の顔を見ていられない。 「そんな事ないよ」 ぐい、と身体を引き寄せられて、耳元に吐息がかかる。 「僕もトウヤと一緒にいたい」 胸の奥から何か熱いものが込み上げてくるのを感じて、更に頬が熱くなると今度は「でも、」と声がする。 「……出来ないんだ」 そしていっそう強く抱きしめられて。 先程までの胸の熱いものは、どうやら目頭へと移動したようだった。 「N、」 矛盾してるね、とは口には出さないけれど。 それでもこんな事を言うオレは、やっぱり我が儘だから。 「好きだよ」 でもこんな我が儘、これ以上は言わないよ。 だって『愛してる』なんて、君を引き止める為の言葉にしかならないもの。 |