クダノボ→♂主→(N)
「ノボリはね、トウヤの事好きなんだよ」


知ってた?って隣で無邪気に笑うこの人は、興味深そうにオレの顔を覗き込んできた。


「…なんとなくは」
「なーんだ」


つまらない、とでも言いたげに口を尖らせたのも束の間。
直ぐに何かを思いついたように、今度は怪しげな笑顔で笑った。


「じゃあ、もう一つ」
「?」
「ぼくもトウヤの事好きなんだよ」


まるで眼球ごと射抜かれるかのような鋭い視線に身の毛が弥立つ。
そしてぞくり、と背筋が粟立った。


「ねぇ、トウヤ」
「…っ」


ジリジリと近付いてくるこの人が酷く恐ろしい。
少しでも目をそらせば、どうにかされてしまうんじゃないだろうか。


「好きになるって、どんな気分?」
「…ぇ、」
「楽しい?悲しい?いなくなった人をずっと待ち続けて、会えない人に恋い焦がれて、そんなの待っているだけ無駄なんじゃないの?帰ってくる保証も、会える保証だってないのに。ノボリだってそうさ、そんな君に恋してるんだから。ノボリはぼくのものなのに」


ピリピリとした空気が辺りを漂う。
ここまで言われたら、オレは何も言えない。
だって全てが真実だから。
いなくなった人を待ち続けてる。
会える保証も無いのに恋い焦がれてる。
だって仕方ないじゃないか、オレには何も出来ないんだから。


「ねぇ」
「…っ」
「どうなの?」


無駄だって事は、わかりきっている事だ。
待ち続けていたって何かが変わるわけでもないのに。


「…オレは、」


でも何かをしていないと、自分が自分でなくなってしまいそうで怖いんだ。
好きで待ってるわけじゃないんだよ。
ただ、あいつを忘れてしまいそうな自分が怖いんだ。


「ねぇ」
「…っぁ、」
「トウ「お止めなさい」


拳を握りしめたそんな時、突如現れたその人は、クダリさんの肩を掴んで静かに言った。
あまりにも突然であまりにも静かなその動作に、オレは呆気に取られて息を呑む。
けれどもクダリさんは何事も無かったかのように、また無邪気な笑顔を振り撒いた。


「…ノボリ、さん」
「トウヤ様…」
「やあ、ノボリ」
「やあ、ではありません。トウヤ様に何を為さっているのですか」


険しい表情で、ノボリさんは言い放つ。


「何の事?」
「とぼけないで下さいまし」


クスリとクダリさんは微笑して、ノボリさんはそんなクダリさんをじっと見つめた。
暫し視界が交錯し合う、黒と白。
辺りを異様な空気が漂う。


「ノボリ」


漸く口を開いたかと思いきや、クダリさんは肩に乗ったノボリさんの手首を掴んで自身の元に引き寄せた。


「仕事があるんだ」
「今の今までサボっていたのに何を言いますか」
「仕事があるんだ」
「……ならば、トウヤ様に謝りなさい」


にこり、と。
先ほどの雰囲気とは全く違い無邪気な笑顔で振り向くクダリさん。
その際に、ノボリさんを掴んだ手を離した。


「ちょっと遊んじゃった」
「…」
「ごめんね、トウヤ」


そう言い残して、そんな彼の後ろ姿を見送った。
残されたオレ達は、暫く無言で立ち尽くす。


「…申し訳ございませんでした」
「…いえ」
「今更ながらですが、クダリにはお気をつけ下さいまし。あの子はああいう子なのです」


ああいう子、というのはそういう事なのだろう。


「…ノボリさんは、」


気に入ったものには興味を抱き、それが自分にとって害になる存在ならば何であっても容赦なく消そうとする。


「なんでございましょう?」


あいつもそんな感じだったな、と恐ろしい事なのにとても懐かしく感じた。


「…トウヤ様?」


ノボリさんの想いに答える事は出来ない。
クダリさんの言葉だって否定しない。
だけど、


「…クダリさんが、好きですか?」
「…ええ、もちろん」


オレはこれからもずっと、ここでお前を待ち続けるから。


(だからオレの気が変わる前に、ここに戻ってきてよ)


届くはずもない想いを胸に、オレはこれからもずっと悲しいままだ。



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