陽明
「愛を語るにゃ寒すぎる」
そう言って暖房の温度を上げ始めた陽に思わず「は」と声を漏らしたのは言うまでもない。お前そんなボケ担当みたいなヤツだったっけか、なんて言うのも馬鹿らしい。開いた口が塞がらないまま黙って睨み続けるが調子は変わらず、暖房の風量が増えた音だけが耳に入ってくる。
「ほら、寒いやろ?」 「いや別に」 「鳥肌立っとる」 「お前が変なボケかますから」 「ボケなやってられんわ」
告白なんて、今更。そもそも愛してるわけじゃないのにな、互いに。クツクツと笑う陽はやけに楽しそうで、何がおかしいのかわからない。愛してるゲームをするわけじゃない、ただ単純に告白するだけだ。オレ達にとっては本当に今更な、卒業して何年経ったんだよってレベルの告白。キスもセックスも散々してるのに未だに告白してないとかどうかと思うぜ、って今更ふと思った結果がこれだ、意味がわからない。
「そもそも愛とかあるんかって話よ」 「無いのかよ」 「無い事もないけど」 「オレはあるけど」 「うわ初耳」
そりゃな、だから告白してないんだっての。今までがおかしかったんだ、始まりだって覚えてないけど。ただ陽が「死なんでくれ」って言いながら泣きそうな顔でキスをするから。黙って受け入れた、それから始まったことだ。
「てか先に手出したのお前だろ」 「絆されちゃったってか」 「絆されて体まで許しちゃったんだが?責任とれよ馬鹿陽」 「おーおーとったるとったる、老後までばっちしとったるわ」
告白よりプロポーズよりずっといいと思った事は口にしない。もうとっくに愛より深いものがある事も、言葉にしなくても伝わるくらいには一緒にいる時間が長すぎた事も。全部が愛しいんだって言えば調子に乗る事を知っているから。
「ずっと一緒にいてやるよ」 「それ告白か?」 「さあな」
だって互いに知り尽くしてる。愛してるなんてありふれた言葉より、そばにいてほしいって願っているから。
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