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校外のベンチに腰掛けて、そよぐ風に扇がれながら昼食を食べていた。周りには誰もいない。


「(…のどかだ)」


一人はいい、静かで。それに余計な事に頭を回さなくても済むから。だからたまにはこういうのも悪くない。パンを一口かじる。


「あー、赤ちんお昼食べてるの?」


しかしそんな一人の時間も長くはなく。声のした方向に目を向ける。


「…お前の昼飯は菓子か、紫原」
「違うよ、これは食後のおやつ」


暇があれば菓子を食べているくせに食後も何もあるか、という言葉を呑み込む。黙っていたら、そいつは隣にやってきた。


「ここはオレの場所だ」
「ベンチは公共のものだよ」


ふにゃりと笑う紫原にはどうも調子が出ない。部活中と今のこいつに差がありすぎて、ため息が出た。
不意に紫原がオレの頭に顔を寄せる。何だ、と疑問に思っていると、


「んー、赤ちんから太陽の匂いがする」


そう言ってまた、こいつはふにゃりと笑った。


「太陽?」
「うん、太陽」
「…外に出てるからか?」
「そうかもー?」


するとふわり、と音がするかの如くごく自然に。紫原のでかい腕の中にすっぽりと収まるオレの身体。どうやら抱き締められたらしい。


「何してるんだ」
「赤ちんを抱き締めてるー」
「なんで」
「んー抱き締めたいから?」


だっていい匂いだもの。表情は見えないが、こいつは多分またふにゃりと笑っているんだろう。


「ねー赤ちん」
「…何だ」
「赤ちんは、外に出てるから太陽の匂いするのかなって言ったでしょ?」
「…簡単に言えばそうだな、それがどうした」
「うん、だからじゃあ、おんなじように外に出てる俺も、赤ちんとおんなじように太陽の匂いするのかなって、」


思ったんだよね。そう言うのと同時に、オレの頭に顔を押しつける紫原。重い。けれど振り払えない。


「赤ちんとおんなじ匂いだったらいいなあ」


徐々に小さくなる声。それに反してぎゅう、と抱き締める腕には力がこもる。


「お前、寝るなよ」
「んー、ちょっと、無理かも」
「言う事聞け」
「うーん…赤ちんがそう言うなら仕方ないや」


授業中に寝ればいいしね、なんて言うもんだから額を軽く小突いてやる。痛いよ赤ちん、て。自業自得だ馬鹿。


「成績悪かったらわかってるな?」
「大丈夫だよ」


俺、赤ちんのために頑張るから。そう言ってほら、またこいつはふにゃりと笑った。


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