03



  今まで何人もの子供を拾ったことがある。
  たとえばまだ十歳の子供。女だけど、栄養不足でやせすぎてその時は男かと思ってた。
  年齢不明のこれまた少女。ひどい世界の中で育ったのに、まるで何も知らないみたいに笑顔が無邪気な子。
  たぶん十代前半の少年。死ぬほど生意気でギラギラしてるんだか死んでるんだかわからない目をしてる。
  自分で歳を言えたぼろぼろの少女かと思ったら少年。真っ白な髪はストレスかと思ったら生まれつきだって。
  そして今、その白い髪の少年を連れて街を歩いている。
  あたしは拾った子供を今まで育ててきたわけじゃない。国の施設に任せることがほとんどだった。生憎子育てができるほどの時間は持ち合わせていないし、子育てなんかしたことも、ましてや結婚していたこともないのだ。それなのになぜこの子供を連れて歩いているかというと、人に預けようと思っていて、その移動中というだけ。そしてこの子を施設に預けられないのも理由がある。
  理由は二つあって、一つが大勢の中に置けるような精神状態ではないことが分かったからだ。一対一でないと怖がるし、大人の男のことを嫌がる。大声を出されたり殴られたり、そういう目にあった可能性がある。二つ目、こっちのほうがますますどうすることもできない理由だ。差別を受ける。
  彼の外見はこの町ではかなり特殊だ。白い髪と薄い色素の肌、黄色い目。ごく少数の外見で、この種族の人間は周りから好奇の目で見られるし、本人もそのせいでひどい目にあったことをわかっているらしかった。街の中を怖がって進んでいるように感じる。でも自慢じゃないが、あたしといれば変な奴に襲われることはない。……はずだ。
  あたしの職業は国に作られた組織で、平たく言ってしまえば国の何でも屋だ。大抵は法から外れた奴の取り締まりだけれど。それに制服もあるし、現に今その目立つ制服を着ている女の連れている子供に手を出す馬鹿はいないだろう。
  やがて住宅街についた。さて、あいつの家はどこだったか。
  小さなマンションの階段を上る。確か三階だったと思ったな。角部屋の前に立ってチャイムを鳴らしたが反応はなかった。それどころかチャイム自体からも反応はなかった。壊れているらしい。
  本人は怒るが仕方ない。金属製のドアを五回ほど殴りつけた。廊下中に音が響いた。近所迷惑かもしれないな。
  一瞬の間の後にドアが開いた。あたしが口を開く前から目の前の男は不機嫌さがにじみ出た顔をしている。
「朝から何の用だよ。帰れよ」
  連れてきた子はというと、怯えたらしくあたしの後ろに隠れてしまった。その子が見えていないせいでますます目の前の男の眉間に縦じわが増えた。今はどちらかというとギラギラ寄りの目だな。仕方なく少年を前に押し出した。
「……誰」
「わかってるとは思うけどあたしの子供じゃないからね。結論から言えばこの子の世話を頼みたい」
「は? 無理だよ」
  即答だった。まあそうか。
  彼もあたしが拾ってきた子供だった。彼は今仕事をしている。あたしがやってる仕事の下っ端。拾った子供たちは回復してすぐに生きるために大抵はこの仕事に就く。
「まあまあ、あんたの給料があんた一人が生活する分しかないことはわかってる」
  じゃあもっと給料あげるよう掛け合ってくれよというつぶやきはとりあえず無視して続ける。
「だからね、この子を預かってくれるなら給料を二倍にしてあげよう。赤ちゃんのお守りじゃないんだからいい条件だと思わない?」
「裏でもあるのかよ」
「見ればわかるだろう」
  彼は少年を見下ろした。入口に立ったまま黙って悩んでいるみたいだった。少年のほうはうつむいたままでいる。
「…………わかった」
  大きい声ではなかったが、あたしはしっかりとした了承の言葉を聞いた。
「そう言ってくれると思ってた。最初のうちは毎日様子を見に来るから」
  彼は扉を大きく開けた。子供のほうは私を見て戸惑ったような顔をした。ここに来る前に一応の話をしておいたがやっぱり不安は不安か。けれどしばらくすると自分からドアの所へ行った。少年は同年代のはずの男の肩ほどまでの身長しかなかった。
「じゃ、頼んだよ。給料は振り込んどくから」
  ドアが閉まった。あの二人はどんなふうに育っていくのだろう。実をいうとそれが見たかったこともあって彼にあの少年を預けたのだ。きっと悪いほうにはいかないはずだ。
  さて、明日が楽しみだ。









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